2013年9月6日から8日まで、「あいちトリエンナーレ2013(Aichi Triennale 2013)」の一環として、愛知芸術劇場小ホールにて、梅田宏明氏(振付家・ダンサー)の公演が行われた。梅田氏は1977年生まれ、2002年にフランスの Rencontres Chorégraphiques Internationales のディレクターに評価され、現在はヨーロッパを中心に世界各地の主要フェスティバル・劇場に招聘されるなど、活躍の幅を広げている(2010年には、Prix Ars Electronica 2010 Honorary Mention を受賞)。

今回発表されたのは「4. temporal pattern」(2013年)と「Holistic Strata」(2011年)の2作品。「4. temporal pattern」は新作、「Holistic Strata」は山口情報芸術センター(Ymaguchi Center for Arts and Media、通称YCAM)の委嘱作品として製作・上演されたもので、今回が国内初の再演となった。

「4. temporal pattern」は、梅田氏の振付プロジェクト「Superkinesis」の4作目で、カンボジア、インド、台湾から3名のダンサーが参加した。「アジアの多様性」を意識したという振付はそれぞれのダンサーのバックグラウンド(インド舞踊、古典仮面舞踊など)を活かしつつも、現代的な仕上がりになっている。

カンボジアのダンサー Rady Nget 氏は、猿のように四つん這いになったり、身体を掻いたり、軽やかに空中にジャンプしたりする。インドの Hema Sundari Vellaluru 氏はインド舞踊の特徴的な目の動きや手の表情、足を踏み鳴らす動作を見せる。台湾の Cheng Yu-jung(Jasmine)氏はバレエのバを思わせる、弧を描いたり、縦の軸線を意識したりする動きをする。舞台が進行すると、3名の踊りはそれらを踏まえつつも、コンテンポラリーの要素を含んだものになっていく。

舞台上には何も置かれておらず、照明はほぼ白色、衣装も白と黒で統一されている。映像は、黒の背景に白色の縦縞、横縞、斜め縞の組み合わせで、舞台を地、ダンサーを図にして滑らかに動くことで、錯視的な感覚を与える。音楽にはノイズが多用され、メロディーはない。ゆったりした動きと素早い動きが交互に繰り返されるダンスは、緩急の切り替えのタイミングが映像、音楽と同期することで、3名のダンサーの動きに統一感を与えている。

梅田氏によると、この作品では、異なる踊りに統一感を与えるための手法として、形を統一するよりも、時間やリズム、呼吸を揃えることに焦点を当てたという。題名の「temporal Pattern」(時間的パターン)はそのことを指しているのであろう。それぞれの身体の形がまちまちであっても、時間的な変化のパターンが一致していれば、ひとはそこに全体性を見出すことができるというわけだ。個がありながらも全体感があり、多様でありながらも統一性があるという本作の特徴は、このようして作られた。本作に続いて5作目、6作目の製作がすでに予定されているという。今後の展開が楽しみである。

「Holistic Strata」は梅田氏のソロ作品で、ダンス、映像、音響の融合を全面的に展開したものになっている。非常に細かい白のパーティクル(ドット)から構成されている映像が、床面と舞台奥、そしてダンサーの身体に高輝度・ハイコントラストのプロジェクターによって投影される。それは満天の星空のようにも、砂漠の砂のようにも、あるいは炭酸の泡のようにも見える。

パーティクルの映像は、身体にだけ投影したり、逆に身体以外の部分にだけ投影したりと、瞬時に切り替えられるようになっており、照明との組み合わせによって、1) 光のパーティクルの背景の中に光のパーティクルでできた身体のシルエット、2) 光のパーティクルの背景の中に影の身体のシルエット、3) 暗転の中に光のパーティクルでできた身体のシルエット、そして4) 完全な暗転(もしくはホワイトアウト)という4つのパターンが展開される。センサーも使用されており、ダンサーの動きに合わせて映像が動くシーンもある。音楽は「temporal Pattern」と同様にノイズが多用されており、映像が同期することで、「Strata」(地層)という言葉が示す通り、時間的断層を成すように瞬時に異なったパターンが切り替わる。低速度の切り替えでは砂嵐しか映らないテレビをザッピングするような感覚、高速度の切り替えではフラッシュを浴びたかのような感覚になる。

暗転のなかで、光のパーティクルがダンサーの身体に照射されると、顔の表情や衣装のテクスチャーが完全に消去され、純粋に身体の持つ立体的形状だけが浮かび上がる。それは光の粒でできた人型の彫刻のようでもあり、またマネキンのようでもある。

人間は「身体である以前に物である」と梅田氏はいう。たしかに、映像の洪水のなかで「被投影物」に徹するダンサーの姿は、固定されたステージの中を自在に動きまわる「能動的身体」から遠くかけ離れている。実際、40分弱の作品のなかで、彼はほとんど立ち位置を変えず舞台の真ん中に立ち続けている。

梅田氏は、学生時代に写真を専攻し、映像に対して強い不信感を抱いたという(たとえば現像に失敗すれば像はたやすく変化してしまう)。そして、「信じられるもの」は何かを探求するために作品を作っているという。今回の作品の最後のシーンでは、生身の身体とデジタルな光のパーティクルでできた身体、そしてその中間状態の身体が激しく明滅するように入れ替わる。それを見ていると、たしかに世界を視覚によって把握することの「不確かさ」や「危うさ」を感じずにはいられない。これは、トリエンナーレのテーマ「揺れる大地 われわれはどこに立っているのか 場所、記憶、そして復活」とも呼応するものである。

高度のメディアテクノロジーに媒介された身体、それは「揺れる大地」の上に立っている。梅田氏は「私の作品にはメッセージや意味、ストーリーなどはありません」という。しかし、ストーリーはともかく、メッセージや意味がないと言い切ることができるか。たしかに、言語的な「解釈」より先に、空間的な映像や音響のテンションを感じ取るべき作品なのだろう。しかしその上で言えば、やはり本作にメッセージや意味は存在するのではないか。少なくとも受け手としてはそのように思うのである。

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「4.temporal pattern」 あいちトリエンナーレ2013 撮影:羽鳥直志

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「Holistic Strata」 あいちトリエンナーレ2013 撮影:羽鳥直志

梅田宏明「4. temporal pattern」「Holistic Strata」

http://aichitriennale.jp/artist/umeda_hiroaki.html

梅田宏明 “Holistic Strata” at YCAM 2011.2.19 – 20(YouTube、YCAMArchives)

http://www.youtube.com/watch?v=6hXD1rQTJio