●平成27年度(第19回)文化庁メディア芸術祭受賞作品展レポート

 2016年を迎え、恒例となった「文化庁メディア芸術祭」第19回の受賞作品展が、2月3日(水)から14日(日)まで東京・六本木の国立新美術館を中心に開催されている。その様子を2月2日(火)に先行して催された、プレス向け内覧会を通して紹介していこう。

 この芸術祭はアート、マンガ、エンターテインメント、アニメーションの4部門で構成され、今年度は世界87の国と地域から、(全部門合計で)4,417の応募作品が寄せられたという。この数は昨年をも上回る過去最多で、その中から部門ごとに大賞、優秀賞、新人賞がそれぞれ決定し、この日それぞれの作品がお披露目となった。展示会場の国立新美術館・企画展示室(2階2E)には多くの報道関係者が詰めかけ、広い室内を解説付きで巡回する形で内覧会が行われた。

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会場入り口風景

●展示会場構成・作品ごとの展示に趣向が凝らされ、中心に功労賞

 企画展示室内はアート部門、マンガ部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門のセクションがそれぞれ四隅に広く設けられ、個々の受賞作がインスタレーションのごとく配置されて、いずれも工夫を凝らした展示がしつらえられている。その凝りようといい林立する作品の密度といい、前回を超える迫力が実際に入ってみて感じられた。また4セクションと仕切られる形で「体験スペース」が設けられ、審査委員会推薦作品のゲーム体験やカタログの閲覧ができるようになっているほか、中央には功労賞を受賞した飯村隆彦、清水勲、上村雅之、小田部羊一の各氏の業績を紹介したブースも設置。このように功労賞受賞者の展示が一か所にまとめられ、前回のように部門どうしをつなぐ形で各功労賞が展示される形から変わったところが、今回の展示会場の大きな特徴といえるだろう。

 最初に入り口で文化庁文化部芸術文化課芸術文化調査官・林洋子氏からの挨拶があり、「海外からの応募も非常に多いフェスティバルとして育ってまいりましたけれども、今回、その成果発表の機会を設けることができましたことを大変うれしく思っております」。

 林調査官によれば場内には160点を超える受賞作品・審査委員会推薦作品の中から約120点が展示されているという。

●アート部門・メディアの本質的な問題への芸術的アプローチ

 最初にアートセクションに入ると、その正面に展示されているのがCHUNG Waiching Bryanによる大賞受賞作品『50 . Shades of Grey』である。白い長方形のパーティションの手前に架けられた6枚の黒枠の紙片に、今では廃れた6種類のプログラミング言語が印刷され、パーティションの反対側ではこのプログラムの実行結果が6台のPCディスプレイに表示されている。プログラミング言語を回顧的に提示するこの作品は、テクノロジーの加速度的な革新に伴う眩暈や郷愁を感じさせつつ、今日に至るまで変わらないものを一目瞭然にもすることで、メディアアートの本質や条件についての探求に誘っている。

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『50 . Shades of Grey』の前に立つCHUNG Waiching Bryan

 次の優秀賞『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』は長谷川愛の作品で、ある実在する同性カップルと、そのカップルの遺伝情報に基づいて生成されたCGの子供たち、合わせて4人が並ぶ大きな”家族写真”と、その写真にまつわる資料が展示されている。マジョリティであろうと異性愛者であろうと巻き込まれている、バイオテクノロジーや生命倫理にかかわる政治的・法律的な決定を、ごく限られた専門家たちだけでなく、広く大衆に解放することがこの作品の目標である。

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『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』について語る長谷川愛

 同じく優秀賞の『Ultraorbism』はスペインのバルセロナとイギリスのファルマス、二都市の会場をリアルタイムの映像通信で中継し、相互の様子を映しながら同時進行で上演されたMarcel·lí ANTÚNEZ ROCAのメディアパフォーマンスである。紙や本といった古いメディアと、投影映像や装着された電子機器といった新しいメディアの組み合わせ、あるいは即興で作られる音や光のイメージと、準備された素材の組み合わせによって、このパフォーマンスは多層的にストーリーを物語る。

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『Ultraorbism』について語るMarcel·lí ANTÚNEZ ROCA

 さらに優秀賞の『The sound of empty space』はAdam BASANTAによるもので、床に仰向けに並べられた大小7つのスピーカーと、それを見下ろすように立てられた1本のマイクからなるインスタレーション。向かい合わせのマイクとスピーカーから発生するハウリングをある種の快適な音として聴かせることで、マイクとスピーカーの間の”空間”というメディアに注目させる仕掛けとなっている。

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『The sound of empty space』

 続いて優秀賞受賞の『Wutbürger』は、KASUGA (Andreas LUTZ / Christoph GRÜNBERGER)の映像インスタレーションである。個人的な問題事について怒りをぶちまけ続ける男の映像が木箱に投影され、人々の怒りが潜在的に溜まっていそうな場所に設置されるこのインスタレーションを眺めていると、個の問題と集団の問題がどこかで通底していることに気付かされる。それを怒りという情動によって、しかしユーモラスに、デモンストレートしてみせる、カウンターパワーに満ちた作品である。

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『Wutbürger』

 また新人賞のLouis-Jack HORTON-STEPHENSによる『Gill & Gill』は、人間と石の関係性を探究する映像作品。碑文彫刻とロッククライミングという、共に石に関わりながらも一見対照的な二つの仕事における、人間と石の関係性の類似が、映像的に浮かび上がる。

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新人賞 『Gill & Gill』 Louis-Jack HORTON-STEPHENS © 2015 Louis-Jack Horton-Stephens

 同じく新人賞の『Communication with the Future – The Petroglyphomat』はLorenz POTTHASTによる、石にメッセージを彫刻するポータブルな装置である。長期的に保存され、未来と通信しうる、石にメッセージを残すことができるテクノロジーを民主化してしまうこの作品は、歴史や権力についてメディア的な観点から一つの思考と実験を提案している。

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『Communication with the Future – The Petroglyphomat』

 そして山本一彰の新人賞受賞作品『算道』は、新しい計算手法の発明である。計算についての身体性をともなった探究の一つとして、作家は珠を移動させることで計算する「論理珠算」という手法と、それを実際に使って計算するための「論理算盤」を開発した。展示ではその論理算盤の実物が置かれ、実際に算道の計算を試すことができる。

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『算道』の展示の前に立つ山本一彰

 このセクションにはほかにも審査委員会推薦作品の中から、『cinéma concret (cinema concrete)』『Film for imaginary music』『Spin』『Double Click to Open』『Voyage de Hokusai(北斎の旅)』の5つの映像作品が選ばれ、展示されている。

●マンガ部門・内向きに、しかし深く、ペンが紡ぐ様々な人間模様

 マンガ部門のセクションでは大賞を受賞した東村アキコの『かくかくしかじか』がまず紹介され、色艶やかな和服姿で展示の壁面に主人公を描く、東村氏本人が報道陣を出迎えた。『かくかくしかじか』は高校3年生の主人公が強烈な性格の絵画教師と出会い、彼との交流を通してマンガ家デビューするまでを描いた人気作で、作者の自伝的作品であるという。展示された原画には個性豊かな登場人物たちの印象的なシーンが描かれ、東村氏によれば「女性版『まんが道』のような感じで描こうとしたが、恩師を登場させたところから先生に対する懺悔の気持ちがあふれ、無我夢中で描いてしまった」という。

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『かくかくしかじか』の展示の前に立つ和装の東村アキコ

 次に優秀賞を受賞した業田良家の『機械仕掛けの愛』が紹介され、立ち会われた業田氏本人から挨拶が寄せられた。『機械仕掛けの愛』は人間に近い心を持つロボットと人間との交流、さらには確執などを描いた短編作品集で、その中から業田氏自身のお気に入りという『ロムニーのコップ』というエピソードが展示されている。また、下描きの原稿用紙をライトボックスを用いて新しい原稿用紙にトレースしながらペン入れするという、業田良家独特の原稿の描き方も併せて紹介されていた。

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『機械仕掛けの愛』の展示の前で挨拶する業田良家

 次の展示は志村貴子による『淡島百景』で、優秀賞を受賞。女性だけが通う淡島歌劇学校の合宿所を舞台に、異なる時代や異なる人物の視点からオムニバス形式で描かれた少女たちの青春群像劇である。人間心理を繊細に描いて定評のある志村氏の持ち味が、デザイン情報誌の『MdN』とのコラボレーションで作られたカラー原画の展示をも通してビビッドに伝わってくる。

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優秀賞 『淡島百景』 志村 貴子 © Takako Shimura 2015

 同じく優秀賞を受賞した『弟の夫』の作者・田亀源五郎は、「ゲイ・エロティック・アーティスト」として知られる異色の作家。受賞作では同性婚をテーマに、他界した双子の弟の結婚相手であるカナダ人の男性と同居することになった主人公、そして主人公の娘との、三人の生活がしみじみと描かれている。田亀氏本人からも「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)という言葉が一般に浸透する以前から、そしてその言葉をメディアで見かけない日が来たとしても、そういう人たちが常に世界のに中に居続けるということを感じ取っていただければありがたい」とのメッセージが伝えられ、展示された原稿をより印象深いものにしていた。

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『弟の夫』の展示の前で語る田亀源五郎

 続いて新人賞の作品が紹介され、奥の壁一面に安藤ゆきの『町田くんの世界』の原画が展示されていた。この作品は生真面目だが不器用、さらに勉強も運動も苦手でありながら、人を愛することによって周囲からも愛される、個性的な少年を主人公にした少女マンガである。寡作な作者の初の連載作品であり、細やかな日常描写を通して、男女を問わず読者を魅了したことが受賞の理由となった。

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新人賞 『町田くんの世界』 安藤 ゆき © Yuki Ando / SHUEISHA

 次の新人賞作品『エソラゴト』は、受賞作の中で唯一の同人誌作品。表題作の『エソラゴト』ほか7つの短編で構成された作品集は、同人誌であるため一般読者の目には止まりにくいものの、マスコットのように簡略化された登場人物のキャラクターと、過剰なまでに緻密に描きこまれた背景との対比が強い印象を残し、商業誌の作品とは異なるシュールな世界観を表現していることが評価された。展示されていたのは作者のネルノダイスキの原画だけでなく、作品に登場する異形のキャラクターを造形した、立体作品も飾られて異彩を放っていた。

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新人賞 『エソラゴト』 ネルノダイスキ © nerunodaisuki

 また新人賞のおくやまゆかによる『たましい いっぱい』は、デビュー以来五年間に発表した作品を集めた短編集で、ナンセンス作品から落語を原作にした作品まで、幅広いジャンルの作品が収められている。登場人物たちが生と死の境目でたわむれるようなゆるやかな作風と、作品ごとに絵柄をガラリと変えてみたりもする多彩な才能が、ひときわ作者の個性を際立てているといえるだろう。展示された原画の周りにポップな魂(?)をたくさん描きこんでいたおくやま氏本人は、「編集者から『量で勝負だ』って言われたんで描いているところです」と、ポツリとひと言。

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コメントするおくやまゆか

 最後に紹介された『Non-working City』は台湾で出版され、優秀賞に選ばれた作品である。作者のHo Tingfungも台湾の作家で、建築家としても活躍している。ストーリーは台北市のどこかにあると噂される”Non-working City”に迷い込んだ貧しいカップルが、働く必要のない桃源郷のような街で新たな生き方に目覚めるというもので、背景に描かれた建築家ならではのユニークな建物、そしてカラーマンガとしての色彩のコントラスト、さらに架空の街と現実の台北市と対比させたを風刺性などが注目された。展示も原画のほか、作中に描かれた建築物のマケット(建築模型)も飾られ、作品への興味をより高めているように感じられた。

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『Non-working City』展示

●エンターテインメント部門・優秀賞4作品のうち3作品が”ゲーム”という流れ

 次なるエンターテインメント部門のセクションでは、大賞を受賞した岸野雄一の『正しい数の数え方』のための、明治期の大衆演芸場を模した特設舞台がしつらえられていた。これは子供向けの音楽劇で、人形劇・演劇・アニメーション・演奏など複数の表現で構成される、観客参加型のライブパフォーマンスである。1900年のパリ万国博覧会に出現した”電気神”が観客にかけた呪いを解くため、川上音二郎一座の座長が旅に出るという設定で、ビデオ上映や制作資料の展示を通してその概要を紹介。会期を通して演目の上演や、ゲストを招いてのトークライブも行われることになっている。内覧会では岸野氏本人も舞台衣装をまとって登場し、実演に向けて意欲を見せた。

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『正しい数の数え方』舞台の上に立つ岸野雄一

 続いて優秀賞受賞作品が紹介されたが、アメリカのMarc FLURY / Brian GIBSONによるゲーム『Thumper』、カナダのJesse RINGROSE / Jason ENNISによるゲーム『Dark Echo』、オーストリアのAssocreation / Daylight Media Labによるインタラクティブインスタレーション&ストリートビデオゲーム『Solar Pink Pong』、カナダのSougwen CHUNGによるインタラクティブインスタレーション『Drawing Operations Unit: Generation 1』と、並んだ4作品のうち3作品がゲームの名を冠しており、すべて海外作品という結果となった。

 まず『Thumper』はレーン上を高速で疾走する甲虫型のキャラクターを操作しながら、ボタンを押してリズムを刻み、ステージをクリアしていくといういわゆる音楽ゲーム。展示では大型プロジェクターとスピーカーによる試遊台が設置され、最新ゲームならではの美麗なグラフィックとサウンドが人目を引いたが、作者によって急遽、内容が最新版にアップデートされる場面もあった。

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優秀賞 『Thumper』 Marc FLURY / Brian GIBSON © 2015 Drool LLC

 これに対して『Dark Echo』はスマートフォンで発売中のアドベンチャーゲームで、画面に表示される足跡と、ヘッドフォンから流れる環境音や足音を頼りに、画面をタップしながら暗闇の世界を歩いていく。ゲーム内世界は至るところに罠が仕掛けられ、正しいルートを逸れると即死するという、ホラーテイストの強い作品となっている。展示では作品の世界観に合わせて、最小限の照明で試遊できるように配慮されていた。

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優秀賞 『Dark Echo』 Jesse RINGROSE / Jason ENNIS © RAC7 Games Inc.

 一方『Solar Pink Pong』は太陽光を丸い鏡で反射して地面に投影し、これを体験者の体と影を使って打ち返して遊ぶという内容だ。投影機は太陽電池で自動制御され、内蔵されたノートPCで鏡の移動が自動制御されている。展示では投影機が設置され、床を跳ね回るピンクの反射光を追いかけて遊ぶ来場者の姿が見られた。制作者のRoland Graf氏(ミシガン大学)によると商業展開を前提に、今後は医療施設でのリラクゼーション用途などにも使い道を広げていきたいという。

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『Solar Pink Pong』について語るAssocreation / Daylight Media Lab

 このように「大画面で遊ぶ、グラフィックが美麗なもので、これから発売される(=Thumper)」「スマートフォンで遊ぶ、グラフィックが最小限度のもので、すでに発売されている(=Dark Echo)」「路上で遊ぶ、既存のグラフィックを超越するもので、社会的活用をめざす(=Solar Pink Pong)」と、三者三様の性格を見せた三作品だが、『Thumper』と『Dark Echo』は近年の独立系ゲームの文脈に属する作品であり、この分野の世界的な盛り上がりを感じさせると共に、世界のゲームシーンの中で日本だけが異なるという特異性も暗示していた。

 そして優秀賞の最後の作品『Drawing Operations Unit: Generation 1』は、ロボットと人間の協調作業をテーマとしたSougwen CHUNGのインスタレーションである。人間の腕の動きを模倣するようプログラミングされたロボットアームが、その作者と協調動作でドローイングを行うというもので、展示ではドローイング風景をビデオで上映。人間と機械の協調という点で、(人間の一人遊びの相手としてプログラミングされている)ゲーム全般に通じるところがあり、本分野における人間とテクノロジーの関係性の広がりを感じさせた。

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『Drawing Operations Unit: Generation 1』の前に立つSougwen CHUNG

 このほか新人賞では、日本人作家が二組。映像作品『ほったまるびより』の吉開菜央と、ミュージックビデオ『group_inou「EYE」』の橋本麦とノガミカツキで、吉野本人が展示作品の前で解説を行った。『ほったまるびより』は”おどり”をテーマに、作者による手描きの絵本と併せて大画面で上映されていた。「ほったまる」とは「ほうっておくとたまるもの」の略語とのことで、木造平屋の伝統的な一軒家に住む歌手の女性、そして四人の踊り子たちの舞踊を通して、言語情報を極限まで排した不可思議な物語が綴られていく。徹底した美意識の追求により、見る者の日常を揺さぶる力強いメッセージが発信されていた。

 一方『group_inou「EYE」』は、GoogleマップのStreet View(ストリート・ビュー)の画像をつなぎ合わせた映像を巨大なモニターに映し、さらにその中央にgroup-inou二人の映像を合成。早送りで表現されるその映像が眩暈にも似た感覚を起こさせるという、展覧会ならではのスタイルで鑑賞者をとらえていた。最先端のテクノロジーに綿密な手作業を組み合わせ、その制作方法やツールをすべてオープンソース化して公開するという、視覚文化に対する批評性も併せ持つ作品である。

 同じく新人賞を受賞したChristian WERNERとIsabelle BUCKOWの『Black Death』は、映像や写真、テキストなどを組み合わせたルポルタージュがWebサイト上で公開され、展示ではそれが数台のPCによって、日本語字幕付きで上映されていた。すでに根絶されたと思われている黒死病(ペスト)が、今でも毎年平均500件の症例が記録されている現実について、シリアスな情報が一見淡々と、その一方で明確な演出意図をもって提示された作品である。世界中に発信できるWebの強みを生かした新しい形式のルポルタージュとして、注目に値しよう。

●功労賞・1960〜1970年代から各分野を担った先達たちの功績

 功労賞受賞者の展示では飯村隆彦氏、清水勲氏、上村雅之氏、小田部羊一氏がそれぞれ紹介され、プロフィールと業績を詳しく列記した年表、そして作品や手掛けた機器などが展示されていた。

 さらに受賞した上村雅之氏と小田部羊一氏がブースの前に立つと、文化庁文化部芸術文化課芸術文化調査官の林洋子氏から二人に向け、次のような賛辞が贈られた。

「いずれも1960年代、1970年代からこの分野を担ってこられた、メディア芸術の父と呼んでよい先生方だと思います。ファミコン開発者の上村雅之先生と「スーパーマリオブラザーズ」デザイン監修の小田部羊一先生はそれぞれハードとソフトの開発者ということで、お二人を同時に顕彰できたことを大変うれしく思っております」。

 受賞者のうち飯村隆彦氏は1937年、東京都生まれ。日本の実験映画を開拓した映像作家として知られ、1960年代に個人制作の前衛映画を次々と発表した後、1964年には実験映画集団「フィルム・アンデパンダン」を結成し、日本初の実験映画祭を行っている。以後、作品がアメリカなど海外でも高く評価され、個人映画作家として国際的な評価を確立。加えて1969年からはビデオアートも手掛け、インスタレーションなどメディアアートの先駆者としても知られるようになった。さらに映像批評家としても著作を持つなど、幅広い活躍を続けている。

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飯村隆彦氏の展示

 また1939年、東京都生まれの清水勲氏は、日本のマンガ史研究の第一人者として著名な研究者である。編集者を経て、川崎市市民ミュージアム専門研究員や帝京平成大学などの教授や講師を務める一方、『漫画の歴史』(岩波新書)を始めとする100冊に及ぶマンガ史研究書を執筆。この分野での業績を長期に渡って積み重ねると共に、とりわけジョルジュ・ビゴーの研究で大きな功績を残してきた。さらに二万点ものマンガ資料を収集し、京都国際マンガミュージアムなどにおけるマンガ関係の展示に大きく貢献しているほか、現在は日本仏学史学会の会長も務めている。

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清水勲氏の展示

 上村雅之氏は1943年、東京都生まれ。1971年に任天堂株式会社に入社した後『ブロック崩し』など、初期のビデオゲーム機のハードウェア開発に携わることになる。1981年には『ファミリーコンピュータ(ファミコン)』の開発責任者となり、それが家庭用ビデオゲーム機として大ヒットした後、後継機の『スーパーファミコン』の開発を通して世界中でビデオゲーム旋風を巻き起こした。任天堂退社後はテレビゲームの学術的研究に尽力し、2011年に立命館大学ゲーム研究センターのセンター長に就任後は、遊戯という観点から人類史を見直している。

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上村雅之氏の展示

 そして1936年、台湾の台北市生まれの小田部羊一氏は1959年に東映動画株式会社に入社後、初期はアニメーション映画のアニメーターとして活躍。1971年に同社を退社した後は、作画監督やキャラクターデザイナーとしてキャリアを重ね、1979年、後年スタジオジブリを創設する高畑勲・宮﨑駿の両氏と共にテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』の制作に参加。この作品を世界的にヒットさせた。以後も日本のアニメーション史に残る作品にスタッフとして名を連ねるが、1985年には開発アドバイザーとして任天堂株式会社に入社し、『ポケットモンスター』など人気ゲームシリーズのデザイン監修を務める形で、アニメーションのノウハウをゲーム分野で生かし続けている。

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小田部羊一氏の展示

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小田部羊一氏の展示

●アニメーション部門・新人続々、可能性の開拓はまだ終わらない

 今回のメディア芸術祭で過去最高の応募数を牽引したのがマンガとアニメーション部門で、アニメーションの応募数は昨年の587作品に対し823作品。特に短編アニメーションは756作品と倍増している。メディア芸術祭の中でも今後の展開が、もっとも期待できるジャンルといえるだろう。

 アニメーションのセクションでは最初に大賞に選ばれた『Rhizome』が紹介され、緻密なドローイングによる生物とも無機物ともつかないものが、映像の中で無数に増殖していく。この作品はフランスの現代思想書『千のプラトー』で提示された概念”Rhizome(リゾーム)”からインスパイアされたもので、来日した監督のBoris LABBÉ氏は「この作品はフランスで制作し、完成させるのに1年をかけました。展示ではいくつかの原画とアニメーションのプロセスを展示し、『Rhizome』全編を上映していますので、ぜひ見てください」と、みずから作品のアピールに努めていた。

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『Rhizome』の前で話すBoris LABBÉ

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『Rhizome』展示

 続いて優秀賞受賞作が紹介され、まず『花とアリス殺人事件』は岩井俊二監督の、2015年の劇場公開作品。同監督による2004年の実写映画『花とアリス』の続編だが、内容はその前日譚で、主役たちの声は『花とアリス』の主演女優が演じている。技法としては古くからあるロトスコープ(実写で撮影した映像をアニメーションにトレースする)を使い、さらにCGでありながら手描きに表現を近づけたセルルック3DCGを併用。展示では同じシーンのアニメ画像、絵コンテ、実写画像、トレースされたセルキャラクター、背景のパネルが並べられ、制作プロセスが説明されていた。

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『花とアリス殺人事件』展示

 同じく優秀賞の『Isand(The Master)』は、Riho UNTの人形アニメーションである。飼い主が帰ってこない家の中に残された二匹のペット。従順な犬と横暴な猿が人間不在のまま暮らす中で起きる悲劇が、人形のサイズを感じさせないボリューム感を持ってリアルに描かれている。ブースにはキャラクタースケッチや絵コンテ、実際に使われた人形が展示されていた。

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『Isand(The Master)』展示

 そして追い詰められ、暴力と屈辱を受けた少年が、一匹の蛇と共に復讐するという物語がGabriel HARELによる優秀賞作品『Yùl and the Snake』である。自伝的要素を持つ、短編アニメーションとしては初の監督作品だという。俳優の演技を実写で撮影し、2Dアニメーションに仕上げているが、その制作過程により登場人物の会話がリアリティを持ちながらも、ロトスコープとも異なる抽象的にしてリアルな表現が特徴となっている。ブースでは今後、制作風景やインタビューも上映される予定。

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優秀賞 『Yùl and the Snake』 Gabriel HAREL © 2015 Kazak Productions

 最後に紹介された優秀賞受賞の『My Home』は2Dアニメーションで、作者はNGUYEN Phuong Mai。母子家庭の少年の家に新しい父親が訪れ、一緒に住むようになるが、その姿は鳥にしか見えない。少年の目を通して他者の侵入を、比喩的に描いた作品といえよう。

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優秀賞 『My Home』 NGUYEN Phuong Mai © Papy3D Productions

 続いて新人賞を受賞した、3作品が紹介された。

『台風のノルダ』はスタジオジブリの『風立ちぬ』などでアニメーターを務めた新井陽次郎が劇場作品の監督デビューを飾った、2015年の短編作品。離島の中学校で文化祭の準備中に台風に襲われ、帰れなくなった生徒たちの一夜を描き、主人公の少年二人が謎の少女と遭遇する。デジタルを使った制作だが手描きの感触を残したアニメーションで、過去のアニメ作品へのオマージュをノスタルジックに示している。新井氏本人がブースの前で挨拶し、「新人賞をいただいてビックリしています。制作したスタジオコロイドは新しくできた会社で、僕もそうですが20代のスタッフが多い。そういうみんなが集まって作りました」。

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新井陽次郎

 次の『Deux Amis(Two Friends)』は水に落ちたイモムシをオタマジャクシが救い、やがて互いに成長してからの再会を描いた、皮肉で寓話的な短編である。作者のNatalia CHERNYSHEVA氏によればフランスのアニメーション学校、ラ・プードリエールの卒業制作で作った作品とのことで、「これは児童向け短編です。シンプルな物語で、異なる世界からやってきた二人が出会い、友達になりますが、成長してからは互いに認識しなくなります」と本人がコメント。彼女は昨年度にも文化庁の海外メディア芸術クリエイター招へい事業による「アニメーション・アーティスト・イン・レジデンス」で、来日したことがあるという。

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Natalia CHERNYSHEVA

 最後に紹介された『Chulyen, a Crow’s tale』はAgnès PATRON / Cerise LOPEZによる、荒削りでダークなイメージの短編作品。”Chulyen”は北米のネイティブアメリカンの伝承に登場する精霊で、半分は鳥で半分は人間だが、傍若無人な行動に出る。それを3人のシャーマンが追跡するという物語である。プレスツアーによる作品の説明が終わり、プレス向け内覧会はここで終了となった。

●審査委員会推薦作品も見られる上映会が最終日まで続く

 2016年の展示を一巡して、ただ展示や映像を見るだけでなく、作品によっては作者本人からのコメントが聞けたことは大きな収穫であった。それはメディアアートやゲーム、アニメーションのような最新の技術を駆使した作品であっても、制作したのは生身の人間であることを同時に実感できたからだろう。展覧会来場者が受賞者によるトークショーとライブパフォーマンスを堪能できる「スーパー・デラックス」でのイベントは2月3日と4日のみの開催となるが、それ以後も2月6日(土)、7日(日)、11日(木・祝)には受賞作品と審査委員会推薦作品の上映がTOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、メディア芸術祭の新たな収穫を大スクリーンで鑑賞することができる。またメイン会場の国立新美術館でも展示会場とは別に、3階の講堂で受賞作品と審査委員会推薦作品の連日上映、さらには受賞作品のレクチャーやトークイベントが行われるため、こちらも展示と並んで見逃せないプログラムといえるだろう。詳しくはメディア芸術祭のフェスティバルサイトを参照してもらうことにして、まずは会期が終わらないうち、ぜひとも会場に足を運んでほしい。

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第19回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展

会期:2016年2月3日(水)から14日(日)まで

会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2) 10:00〜18:00

*金曜は20:00まで *入場は閉館の30分前まで *2月9日(火)休館

 TOHOシネマズ六本木(東京都港区 六本木6-10−2 六本木ヒルズけやき坂コンプレックス)

 *開館時間は国立新美術館とは異なります

入場料:無料(すべてのプログラムが参加無料)

詳細はフェスティバルサイト(http://festival.j-mediaarts.jp/