平成27年度[第19回]文化庁メディア芸術祭・受賞作品及び功労賞受賞者発表会レポート

 2015年11月27日、東京・六本木の国立新美術館講堂において「第19回文化庁メディア芸術祭・受賞作品及び功労賞受賞者発表会」が催された。平成9年度から続く「文化庁メディア芸術祭」はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門に分けて世界中から作品を公募し、優秀作品を顕彰・展示する、文化庁主催のメディア芸術総合フェスティバルである。

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 平成27年度は日本からの2,201作品を含めて世界87の国と地域から4,417作品の応募があり、総数は過去最多。また部門別ではアート1,946作品、エンターテインメント700作品、アニメーション823作品、マンガ948作品の内、アニメーション部門、マンガ部門への応募数も過去最多を記録した。

 開会と共に加藤敬文化庁文化部芸術文化課長が主催者挨拶を、続いて青木保国立新美術館館長が挨拶を述べた。

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挨拶を述べる青木保国立新美術館館長

●「議論を尽くし」て決定されたアート部門の大賞・優秀賞

 受賞作品はアート部門から発表が行われ、大賞にはイギリスのチュン・ワイチン・ブライアン氏によるグラフィックアート『50 . Shade of Grey』、優秀賞にはカナダのアダム・バサンタ氏によるメディアインスタレーション『The sound of empty space』、スペインのアルセリ・アントゥネス・ロカ氏によるメディアパフォーマンス『Ultraorbism』、ドイツのカスガ(アンドレアス・ルッツ氏とクリストフ・グリューネベルガー氏のユニット)による映像インスタレーション『Wutbürger』、日本の長谷川愛氏による写真、ウェブ、映像、書籍のかたちで制作、発表された『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』、さらに新人賞として日本の山本一彰氏による計算手法、パフォーマンス『算道』、ドイツのローレンツ・ポットハスト氏によるインタラクティブアート『Communication with the Future – The Petroglyphomat』、イギリスのルイス・ジャック・ホートン・スティヴェンス氏による映像『Gill & Gill』がそれぞれ選ばれた。

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大賞受賞作品『50 . Shade of Grey』

 大賞受賞の『50 . Shade of Grey』は、6つのプログラミング言語がそれぞれ額装されたシート上に記述された作品で、これはどれも50階調のグレーのグラデーションを表現するプログラムであるという。審査委員の植松由佳氏は「デジタルにとって欠かせないプログラム言語を扱ったことが、メディアを考えた時に大賞に相応しいのではないかと議論の一致をみました」と受賞理由を説明した。作者のメディアアーティスト、ブライアン・チュン氏からはビデオメッセージが寄せられ、「この作品で昔慣れ親しんだプログラミング言語を詩的なテキストとして書きました。それは古い友人との再会と同じです」と語っていた。

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ブライアン・チュン氏からのビデオメッセージ

 また優秀賞受賞の『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』は実在する同性カップルの遺伝情報を元に子供の遺伝データを生成し、そこから架空の家族写真を制作した作品である。人間の遺伝子操作を題材に取り上げたことで、審査会で議論を呼んだとのこと。登壇した長谷川愛氏は「いろいろな国で同姓婚が可決した中、日本では何も議論に上っていない状況をどうしたら変えられるのか。同姓婚のカップルから子供が作られることが実現したら、それは倫理的に許されるのだろうか? それは誰がどうやって決めるのか? 私たち当事者がその意志決定に加われることができるのかと考えました」と語り、この作品の制作プロセスを追ったテレビ番組が熱い反響を呼んだことも報告した。

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優秀賞受賞作品『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』。

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自作について語る長谷川愛氏

 アート部門全体の作品傾向について植松由佳氏は「特長的なのは、音がテーマで身体を使ったパフォーマンス性などを兼ね備えた物が数多く見られたこと。また映像作品が多く、特に映画として考えられるような要素を含んだ作品が多かった」ことを明かし、「審査員5名それぞれが考えるメディアアートの定義について、メディアが変遷するなかでどういった作品が相応しいのかを議論を尽くした」と語っている。

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アート部門受賞作品について語る植松由佳審査委員

●エンターテインメント部門で注目された観客参加型の音楽劇

 続いてエンターテインメント部門の発表では、大賞に日本の岸野雄一氏による音楽劇『正しい数の数え方』、優秀賞にはカナダのジェッシー・リングローズ氏とジェソン・エンニス氏によるゲーム『Dark Echo』、同じくカナダのソウゲン・チュン氏によるインタラクティブインスタレーション『Drawing Operations Unit: Generation 1』、 オーストリアのアッソクリエーション/デイライト メディア ラボによるインタラクティブインスタレーション及びデジタルデバイス『Solar Pink Pong』、アメリカのマーク・フルーリー氏とブライアン・ギブソン氏によるゲーム『Thumper』が、また新人賞には日本の吉開菜央氏による映画『ほったまるびより』、ドイツのクリスティアン・ヴェルナー氏とイザベル・ブッコー氏によるウェブ、ルポルタージュ『Black Death』、そして日本の橋本麦氏とノガミカツキ氏によるgroup_inou「EYE」のミュージックビデオがそれぞれ選ばれた。

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大賞受賞の音楽劇『正しい数の数え方』

 大賞受賞の『正しい数の数え方』は人形劇と演劇、アニメーション、さらに演奏を組み合わせた子供たちのための音楽劇で、2015年にパリと東京で上演されている。「スタディスト(勉強家)」を自称する作者の岸野雄一氏は壇上で挨拶し、「観客席の子供たちとのコール&レスポンスを舞台上のスクリーンへ反映させることで、作品内に参加出来る「体験型」の音楽劇です。演者がステージで演じたことと観客が行った行為がステージに反映され、劇が進展していくというインタラクティブな要素をかなり使っています」と作品を紹介。これに応えて審査委員の飯田和敏氏は「岸野さんは長らく「ヒゲの未亡人」という地下文化貢献活動の大先輩として、常に何かのメッセージを発している印象があり、受賞を心待ちにしていました」とコメントした。

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コメントを述べる岸野雄一氏

 さらに飯田氏は「2015年という年は、日常を日常として全うすることが難しい年だったと思います。そういった年にエンタテーメントや表現というものが、どのように必要とされているのかを突きつけられるような審査プロセスでした」と審査の舞台裏を明かし、「最新テクノロジーを追っていくことについては一端保留した上で、何がここに並ぶべきかと考えた」とエンターテインメント部門の総評を締めくくった。

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コメントする飯田和敏審査委員

●アニメーション部門受賞作品に見る短編と長編の最先端

 またアニメーション部門では、フランスのボリス・ラベ氏による短編『Rhizome』が大賞を受賞。続いて優秀賞は日本の岩井俊二による劇場アニメーション『花とアリス殺人事件』、エストニアのリホ・ウント氏による短編『Isand(The Master)』、フランスのグエン・フン・マイ氏による短編『My Home』、同じくフランスのガブリエル・アレル氏による短編『Yùl and the Snake』が受賞し、さらに新人賞は日本の新井陽次郎氏による劇場アニメーション『台風のノルダ』、フランスのアニエス・パトロン氏とセリーズ・ロペス氏による短編『Chulyen, a Crow’s tale』、ロシアのナタリア・チェルヌショーヴァ氏による短編『Deux Amis(Two Friends)』が受賞したことがそれぞれ発表された。

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大賞受賞作品『Rhizome』

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ボリス・ラベ氏からのビデオメッセージ

『Rhizome』はミクロな世界からマクロな世界が生成されていく様を、緻密なドローイングとデジタル表現とで描き切った映像が高く評価されての大賞受賞。会場には作者のアニメーション作家・ボリス・ラベ氏からのビデオメッセージが寄せられ、「作品が世界中をツアーして、日本を始め世界中の人に鑑賞されるようになれば幸いです。来年2月に日本でお会いできることを楽しみにしています」とのこと。

 小出正志審査委員はこの作品に対して「部分的に見ても魅力が伝わらないと思うので、ぜひ全編を御覧いただきたい」と語り、「(『Rhizome』は)すでに色々な映画祭で上映され評価されているそうですが、まだグランプリを取っていないので、初めて評価できたことも幸い」だったとコメントした。

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優秀賞受賞作品『花とアリス殺人事件』

 続いてのビデオメッセージは優秀賞受賞の『花とアリス殺人事件』の作者で、映画監督の岩井俊二氏から寄せられたもの。『花とアリス殺人事件』は2004年に公開された実写映画『花とアリス』の前日談となっている作品である。「初めて作ったアニメ作品ですが、日本中の多くのスタッフや、アジアからアメリカまで広がったスタッフたちが、一つの作品のためにせっせと一コマ作ったりCGを描いたりしました」と語った岩井氏は、「これからも年齢を忘れて新しいことにチャレンジしていけたらいいなと思います」と意欲を見せた。

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岩井俊二氏からのビデオメッセージ

 小出氏はアニメーション部門全体について総評をこう語った。「(今年の応募は)短編が756作品と、素晴らしい数です。世界的に短編アニメーションはクオリティも高く、活況を呈している。一方で劇場、テレビシリーズ、OVAなどのいわゆる商業作品は67本と、日本で作られる数に比べて応募数は多くないと思う。話題作でも以前の作品に比べて力が無いかなと感じるので、片方(短編)は活況を呈している(のに)、片方(商業作品)は量は多いが、こういった質では寂しいものがあった」。

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受賞作品について語る小出正志審査委員

●マンガ部門応募作品増大により深まった議論

 最後にマンガ部門の発表が行われ、大賞は日本の東村アキコ氏による『かくかくしかじか』が受賞した。さらに優秀賞には、日本の業田良家氏による『機械仕掛けの愛』、志村貴子氏による『淡島百景』、田亀源五郎氏による『弟の夫』、ポルトガルのホー・ティンフン氏による『Non-working City』が選ばれ、新人賞受賞作品は日本のネルノダイスキ氏による同人作品集『エソラゴト』、おくやまゆか氏による『たましい いっぱい』、安藤ゆき氏による『町田くんの世界』が選ばれた。

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大賞受賞作品『かくかくしかじか』

 大賞受賞の『かくかくしかじか』はマンガ家である作者の半自伝的作品で、東村アキコ氏が寄せたビデオメッセージによれば「私が高校生の時に絵を学び始めた時に出会った、凄く変わった先生というか師匠のことを、そのままマンガにしました」とのことで、「青春時代にやり残したこととか、先生に言えなかったことをマンガの形で昇華できたように感じます。描いていて凄く辛いのだけど、これをやらないとここから先に進めないと感じて、描いて良かったと思っています」とも語った。

 審査委員のすがやみつる氏はまず「昨年は大賞は一瞬にして決まったが、今年は票が割れました。その話し合いの中で一番票が高かったのはこの作品でした」と語り、「(『かくかくしかじか』は)全美大生に読んでもらいたいと思いました。もう一つ、アメリカの心理学者ベンジャミン・ブルームは、運動スキルを高め、認知スキルを高め、それと態度が三位一体となって初めて教育となるとしています。それを体現しているマンガだと個人的に大変興味を持って読んでいました」と、この作品を推した理由を明かしている。

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優秀賞受賞作品『機械仕掛けの愛』

 続いて『機械仕掛けの愛』の作者の業田良家氏が登壇し、「900を超える作品から最後の5作品に残ったということで、信じられないくらい光栄なこと」と挨拶した。さらに「アート部門の長谷川(愛)さんの同姓婚がテーマの1つにもなっている作品ですが、『機械仕掛けの愛』にも同じようなテーマの話しがあるので驚いています。独身男が粘膜を機械に入れると十月十日後に赤ちゃんが出てくるという話を描いていて、すごく近い物を感じ」たと語った。

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自作について語る業田良家氏

 マンガ部門の受賞作品決定までには「大賞、優秀賞をどうするかでかなりの議論がありました」とすがや氏。海外からの応募で唯一の受賞作となった『Non-working City』についても、「審査の当初の段階から評価が高かった。圧倒的に絵の力があった」と言及した。

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マンガ部門の総評を語るすがやみつる審査委員

●功労賞発表と受賞作品展開催告知

 この後、4部門の受賞作品発表に加えて功労賞の発表が行われ、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの各部門において大きな功績を残した飯村隆彦氏(映像作家、批評家)、上村雅之氏(ハードウェア開発者、ビデオゲーム研究者)、小田部羊一氏(アニメーター、作画監督、キャラクター・デザイナー)、清水勲氏(漫画・諷刺画研究家)の名前が発表された。

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受賞作品展の告知を行う建畠哲多摩美術大学学長

 最後に今回発表された作品の「受賞作品展」が2016年2月3日(水)から2月14日(日)にかけて東京の国立新美術館、TOHOシネマズ六本木、スーパー・デラックス、他で行われることが告知され、概要説明に加えて建畠哲・多摩美術大学学長がコメント。「(『文化庁メディア芸術祭』が始まった)19年前は携帯も無かったが、それから大きく作品も変化している。メディアアートの成熟もあり、新しい技術の新規性というより、メディアそのものによるメディアへの批評がこの分野でも芽生えている」と、今後のメディア芸術祭によせる期待を語って今年の「受賞作品及び功労賞受賞者発表会」は幕を閉じた。認知拡大による応募作品の増加が来年はどんな成果となって現れるか、個性豊かな受賞作品の数々を見る限り、十分に希望をつなげる祭典になるのではないだろうか。

●受賞作品の詳細は下記参照

http://festival.j-mediaarts.jp/award