『君の名は。』に代表される2016年の「大変革」

 今年に入っても公開が続く『君の名は。』の大ヒットにより、スタジオジブリ作品に続いてアニメーション映画の集客力が改めて注目された2016年。「デジタルコンテンツ白書2016」(デジタルコンテンツ協会刊)の「アニメーション」項目では、さらに「2016年のアニメーション産業の状況」は「大変革」であると指摘して、その理由を「従来のアニメーションビジネスでは、テレビ放送、映像パッケージ販売、劇場興行が中核に位置してきた。一方で『(映像)配信』、『海外(展開)』、『ライブエンターテインメント』の収益はプラスアルファ的な位置付けだった。これらの売上がいまや従来ビジネスを凌駕する勢いになっている」からと説明している。さらに「アニメーション産業全体ではむしろ着実に成長して」いると続け、つまり『君の名は。』や興行収入が初めて60億円を超えた『名探偵コナン 漆黒の悪夢(ナイトメア)』のような劇場作品のヒットが相次いだだけでなく、2016年に業界全体の構造が変化し、ビジネスモデルが大きく組み変わったとしているのだ。

 実際、アニメDVDやブルーレイのようなパッケージ販売の売上が減少し続ける一方で、シェアではパッケージ販売に及ばないものの、「配信」による映像販売は2016年も拡大を続けている。配信のシステムも定額での映像見放題のようなこれまでのサービスに加えて、有料配信された映像を保存し、所有できるEST(配信動画販売)のような新たなサービスが登場し、この「配信」を武器にKADOKAWAのような大手がアメリカの配信サービス会社と組んで、アニメーションやゲームの北米配信に乗り出したことも2016年の話題となった。

 映画においても鑑賞のシステムに体験型の「4DX」が加わって盛り上がりを見せ、2016年には『カゲロウディズ in a day’s』がオリジナル4DX作品として公開されたほか、旧作のアニメーション映画が4DX方式でリバイバル公開される例が相次いでいる。これも含めて映画の「ライブエンターテインメント」化が加速し、上映中の声援やペンライトの点灯による”応援上映”を公認した『KING OF PRISM by Pretty Rhythm』が異例のロングランを達成。『君の名は。』の大ヒットと併せて、それまで映画館に足を運ばなかった観客層の開拓に貢献したことも忘れてはならないだろう。

 こうしてアニメーション作品のビジネス・コンテンツとしての価値が再認識されていくなか、2016年はテレビアニメの活況も続き、新作本数の合計は近年最高だった2015年の233本に迫るものとなっている。

ビジネスの「大変革」より製作基盤の「変革」

 だがそれら「大変革」を迎えたビジネスサイドにおける急成長と呼応するかのように、業界のニーズに応えきれなくなった製作現場からの悲報が相次いだのも2016年ではなかったろうか。

 テレビアニメでは冬春夏秋の1クールごとに新作の本数を増やしたあげく、秋期(10〜12月)の『ろんぐらいだぁす!』が放映2話分を落としたまま完結し、残り2話を今年の2月に放映。そのほか『第502統合戦闘航空団ブレイブウィッチーズ』など、制作が追い付かずに、番外編の放映や総集編、出演声優によるバラエティ仕立ての特番などで回数を合わせた作品が続出した。今に始まったことではないが、その多さが新作本数の増加と裏腹の関係にあることは指摘するまでもないだろう。制作スタッフの大幅な増加も見込めないまま(それどころか減少している?)、オーバーワークで支えられているこの業界にはおのずから”許容量”が存在し、2016年はその限界を最もあらわにした年だったともいえるのである。

 そのことの裏付けとして、NPO法人「若年層のアニメ制作者を応援する会(AEYAC)」が今年2月25日に発表した2016年度「若年層アニメーター生活実態調査」から引用するなら、調査対象となった153人のアニメーターのうち正社員は約7パーセントで、残りがフリーや契約社員などの非正社員。そして約90パーセントがひと月に200時間以上働いており、収入は平均月給10万円未満が50パーセント以上、初任給10万円未満が80パーセント以上であるという。もちろん監督やプロデューサー、作画監督といった収入に恵まれた役職もあるにせよ、これがオーバーワークを抱えた若手アニメーターたちの平均的な実態であるとするなら、こんな旧態依然の状態のままアニメビジネスの「大変革」などありえるのかと、誰もが思うに違いない。

  そしてそんな現実を反映する形で、2016年には「霊剣山」、「一人之下」、「CHEATING CRAFT」、「TO BE HERO」など、中国のアニメ製作会社や映像配信会社が日本のテレビ局や製作会社と組んで製作・放映した作品が続出している。そこに見られるのは中国国内の日本製アニメに対するニーズに対応して日本進出を図る中国企業と、経済発展を続ける中国に新たなスポンサーを求めて窮状を打開しようとする日本の製作会社との、国境を越えた思惑の一致である。個々の作品の成果はまだ乏しいものの、今後このような形でのアニメ製作の融合が進めば、いずれより高い報酬を掲げる中国企業が、日本のアニメーターにとっての新天地となる可能性すらないとはいえない。同様に2016年に、Cygamesのようなゲーム会社がみずからアニメーションスタジオを設立して制作に直接参入したように、異なる業種とのコラボレーションがアニメーション製作の今後の労働環境を変えていくかもしれない。いずれにせよそのような製作基盤の変革がなければ、ビジネスサイドの「大変革」も絵に描いた餅にしかならないことだけは確かだろう。

「ライブエンターテインメント」化するアニメーション映画の明暗

 そして同様のコンセプトで映画のほうにも目を向けるなら、『君の名は。』のヒットを皮切りに、アニメーションが映画業界全体を牽引しているかのような注目のされ方にも思わぬ亀裂が見えてくる。

 確かに『君の名は。』だけでなく劇場版『ドラえもん』、『ONE PIECE FILM GOLD』、『聲の形』、『この世界の片隅に』と2016年はヒット作、話題作が続いたが、その数をもってアニメーション映画の時代到来と謳ってしまうのはいささか早計ではないか。なぜなら2016年公開の国産アニメーション映画は合計70本以上と、毎週1本以上の作品がスクリーンで封切られているからである。公開本数が多ければ、当然その分ヒット作が生まれる確率も高くなるわけで、ここにもオーバーワークによって作品の質までもが支えられている業界の構造が見て取れる。だからこそテレビアニメと同じく、公開中止にこそ至らないものの、かろうじて映画の形態を保つような形で公開された作品が目に付いたのも2016年の特徴であった。

 そのような傾向を端的に示す作品として、一つには20〜30分程度の上映時間しかないものが映画として公開されることがままあったことを指摘しておかねばならない。これは「ライブエンターテインメント」化の流れの中で、短編と豪華パンフレット、作品関連グッズなどをセットにしてイベントに仕立てるというもので、上映作品のコアなファンを当て込んでこそ成立するニッチなビジネスモデルといってもいい。しかし中には、上映時間40分と謳っておきながら途中でアニメが終了(完結ではなく次回へ続く)し、残る時間を作品製作のメイキング映像で埋めるという、かなりきわどい作品も見受けられた。またそれほど短くなくても、上映時間1時間程度で完結する作品が確実に増えてきたことや、以前からあったテレビアニメ人気作品の総集編を映画として封切る傾向が高くなってきたことなど、それまでの(実写作品を含めた)映画の常識を覆すかのようにアニメーション映画が増加している現実を、ただ歓迎していていいのだろうか。「ライブエンターテインメント」化が試行錯誤を繰り返す中で定着していくのであれば、それも(多少は)仕方がないかもしれないが、作品をネタに観客にいかに散財させるかという方向でそれが開拓されていくのであれば、広い層の観客からアニメーション映画に寄せられた期待も、やがて失望に変わっていきかねない。

 まして『君の名は。』の大ヒットをきっかけに、”一般大衆に受けるアニメ”を狙って映画産業全体の流れが変わりかけている今、この好況に浮かれていたずらにアニメーション映画の製作本数を増やしていくようなことになれば、それこそテレビアニメの増加と併せてアニメーション産業の基盤すら、オーバーワークによって破壊してしまうことになりかねないだろう。

 アニメーション産業の「大変革」がもたらすものは、かならずしも成功ばかりではない。この変革の時期にあって2017年は、その行方を占う最初の年になるかもしれないのである。