オーストリアのクレムスにあるドナウ大学イメージ・サイエンス学科は2006年より「メディア・アート・ヒストリーズ(MediaArtHistories)」コースを設置し、国際的な教育プログラムを展開している。

同学科長を務めるオリバー・グラウ氏は学会「メディアアートと科学技術の歴史に関する国際会議」の運営や著書MediaArtHistoriesを編集するなど、メディアアート史の普及に尽力する人物だ。

グラウ氏が1999年より主導してきたオンライン・アーカイブのプロジェクト「Database of Virtual Art」を前身として、同学科は「Archive of Digital Art (ADA)」(2012年−2016年の5カ年プロジェクト)を立ち上げた。

同プロジェクトは、「拡張されたドキュメンテーション(expanded concept of documentation)」というテーマを掲げて、メディアアートの研究に寄与することを目的にしている。現時点で、372組のアーティストによる1832作品、23名の研究者/キュレーター、825組織、2300点の文献がリニューアルされたウェブサイトで試験公開中である。

人(作家/キュレーター/研究者など)、イベント(展覧会/学会など)、作品、資料(画像、映像、テキストなど)を複合的に結びつけたオンライン・アーカイブは、筆者が以前紹介したV2_アーカイブ」(オランダ)の構造に類似する。さらに、公開ページとメンバーページが設定されており、前者は規定をクリアしたアーティストや研究者が自由にデータをアップロードすることができ、後者は規定外の人々の情報交換のプラットフォームとして機能させる試みである。同様な、集合知を目指したオープンなプラットフォームとして、「Art and Electronic Media Online Companion(ベータ版)」が挙げられる。

「Archive of Digital Art (ADA)」では、メディアアート分野で活躍する主要な研究者やキュレーターから構成される委員会(Board)を設置し、同アーカイブで公開する対象を選定している。並行して半オープンな形式で新規コンテンツを拡充していこうとするものである。

様々な理由でメディアアートの収集や保存が困難であることを考慮すれば、特定の作品や資料体を保有しない教育機関がオンライン・アーカイブを構築することは有意義だと考えられるが、扱う対象の範囲が不明確である点が同アーカイブの大きな可能性であると同時に懸念事項として浮かび上がる。それはメディアアートの定義が不明瞭であるという問題以前に、同オンライン・アーカイブのコンテンツが特定の人々による嗜好に留まってしまう恐れがあるということである。

選ばれた資料体とは、将来に書かれうる歴史の可能性を狭めることに直結する。そのような意味で、同オンライン・アーカイブは、本来は網羅性が求められるアーカイブ構築とは異なる志向を持っているといえる。むしろ、現在進行形で書かれている複数形のメディアアート史(Media Art Histories)のためのプラットフォームとして機能させようとすることがうかがえる。

なお、ドナウ大学は、オールボー大学(デンマーク)、ウッチ大学(ポーランド)、香港市大学と提携して、「メディア・アーツ・カルチャー」の修士プログラムを2015年8月から開設するにあたり、奨学生を募集している。

Archive of Digital Art (ADA)
https://www.digitalartarchive.at/

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