二回目となる「文化庁メディア芸術祭を語る」。今回は『風雲児たち』で知られ、現在は同芸術祭のマンガ部門審査委員を務める漫画家/マンガ研究家のみなもと太郎さんと、講談社で数多くの人気マンガの編集を手がけ、現在は独自のクリエイター支援で注目を集める会社「コルク」を率いる佐渡島庸平さんをお招きしました。日本のマンガコンテンツのポテンシャル、マンガ界が抱える問題点など、多様な話題を通じて、本年度の受賞者が発表されたばかりの「第17回文化庁メディア芸術祭」への期待をお伺いしました。作家と編集者。二つの異なる立場から、メディア芸術祭とマンガの可能性を探ります。

[プロフィール]

みなもと 太郎
1947年、京都府生まれ。67年、デビュー。ギャグとシリアスが混在した作風で人気を博す。2004年、歴史マンガの新境地開拓とマンガ文化への貢献により、第8回手塚治虫文化賞特別賞受賞。第14回メディア芸術祭優秀賞受賞。代表作に『風雲児たち』シリーズ、『ホモホモ7』『挑戦者たち』のほか、『ドン・キホーテ』『レ・ミゼラブル』などの世界名作シリーズがある。


佐渡島庸平
1979年、東京都生まれ。2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。


 

マンガ家と編集者

みなもと
佐渡島さんはおいくつですか?

佐渡島
34歳です。

みなもと
私は66だけど、じゃあ親御さんの方が私より若い?

佐渡島
62くらいですね。

みなもと
ああ、花の24年組の世代なんだ(笑)。佐渡島さんは、講談社にいつまでいらっしゃったんですか?

佐渡島
2002年に入って、12年に辞めたので、ちょうど10年間いました。ずっと週刊『モーニング』の編集部です。

みなもと
10年前かあ。私のところに『モーニング』誌が献本で届かなくなった頃だなあ……(笑)。


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佐渡島
(笑)。講談社の担当編集はどなただったんですか?

みなもと
最初の担当は入社されたばかりの栗原良幸さん(※1)ですね。

佐渡島
あ、栗原さんなんですか! コルクでも、マンガ編集のことを考える際に栗原さんに何度かおいでいただいて、お話を伺っています。

みなもと
あの人のマンガに対する考え方は非常に正しい。栗原さんは「一コマ一コマに値打ちはない」と言ったでしょ。あれは、私が昔から考えていた事とまったく同じ。前後にどんなコマが来るかによって、そのコマの意味が決まるのであって、一コマ一コマを独立させて論じたって何の意味もない。
彼は『モーニング』を立ち上げる時に、何度かうちに通ってくれたなあ・・・。「何か描く?」と問われて「いやー、いいっスよ」って答えて遠慮したけれど(笑)。

佐渡島
『風雲児たち』は、もう30年以上続いてますよね。ここまで連載が長くなる予想はしていたんですか?

みなもと
まったく! 10年はかからんだろう、と踏んで始まった仕事。5〜6年で終わるだろうと思っていたんだけど、調べ出したら次から次へと面白げな話がたくさん出てくる。「えー、そんなことが!」と、自分で驚きながら描いてるうちに30年経っていた。読者から「ライブ感が凄い」みたいな感想をいただくけれど、たしかに昔から一切ネームはしませんね。

佐渡島
いきなり原稿なんですか? ライブ感があるのは、そういう理由なんですね。

みなもと
途中でトイレに行って戻ってくると、もうさっきとは違う方向に話が行ったりすることが当たり前にあります。

佐渡島
僕、杉田玄白や平賀源内があんなに面白い人だって、『風雲児たち』を読んで知りました。

みなもと
そんなに読んでくれてるの?

佐渡島
『週刊 少年ジャンプ』の話ですけど、『ワンピース』初代担当で、浅田貴典さんという尊敬している編集者がいるんです。浅田さんと飲んでる時に、「お勧めのマンガはなんですか?」って聞いたら『風雲児たち』です」っておっしゃっていて。それで読んでみたら、「うわ、面白い!」と。高校時代に読んでいたら、大学では歴史を選んでいただろうなあと思いました。

Appleよりもマンガは強い

佐渡島
みなもとさん、今のマンガって面白いと思いますか?

みなもと
面白い、しっかりしてる、デッサン力もある。読める作品はたくさんある。だけど、「役者を決めて、ロケハンやって、青山あたりで撮影すればこれはそのままドラマになるよね」っていうものが多い。マンガでないとできない表現をしている作品をやっぱり私は評価します。そういう意味では、売れ筋の作品は好きではないね。

佐渡島
あ、ちょっと待って下さい。僕、みなもとさんの話をスタッフに聞かせたいです。ひょっとすると新人マンガ家が原稿書いてるかもしれないから、彼にも……(スタッフを呼びに行く佐渡島氏)。

みなもと
売れなくなるかもしれないよ、私の話なんか聞いてると(笑)。


佐渡島
お待たせしてすみません。マンガ家は居なかったんですけど、スタッフを呼んできました。

みなもと
(コルクスタッフに向けて)大して値打ちがある話はしませんよ(笑)。コルクっていうのは、どのくらいの規模でやっているの?

佐渡島
今は10人くらいですね。コルクは、作家のエージェントをやっているんです。みなもと先生と同世代のマンガ家の方々、手塚治虫さん、石ノ森章太郎さん、永井豪さん、さいとう・たかをさん、みなさん自分で事務所を構えていますよね。

みなもと
私は自分の部屋でしこしこ描くタイプです。売れてる人は違うだろうね。もちろんマンガは自分で描くしかしょうがない世界だから一生懸命やるけど、経理的なことは女房に任せて、自分の収入はいくらか分かんないというのはよくある話だね。

佐渡島
それをサポートしたくて、コルクを創業しました。例えば小山宙哉さんの『宇宙兄弟』って、今の日本の出版業界の基準だとよく売れている方なのですが、僕はもっといけると思っているんです。

みなもと
(販売部数は)すでに何十万部、何百万部といってるでしょう。

佐渡島
今は累計1400万部なんですが、僕はもっと多くの人に読んでもらいたくて。

みなもと
そういう世界なの? 分かんないな(笑)。

佐渡島
マンガ家の才能に見合った収入がきちんと入ってくる仕組みをつくりたいんです。例えば『ドラゴン桜』の三田紀房さんが、『クロカン』っていう作品を連載していた時って、それほど売れなかったんですよ。でも素晴Fらしい作品だった。もっと可能性があると思って信じていたから、『ドラゴン桜』では一生懸命頑張れたんです。
人が生活必需品以外のものに金を払うっていうのは、心が動いた時だと思っています。『ドラゴンボール』が動かした心の量っていうのは、Apple社製品が動かした心の量よりも多いはず。だったら、スティーブ・ジョブスさんよりも鳥山明さんがお金持ちになれるのではないか? その仕組みをつくるために、出版社が一緒に努力していったらどうなるのだろうと、考えていました。

みなもと
鳥山明さんは全世界ツアーをしないといかんのですよ。チャップリンが戦前に日本にやって来た時の熱狂っていうものが、思い出として昭和史の中に残っている。だから、鳥山さんが世界中をバーっと回れば、どこの国にだって「鳥山明」の名前と共に日本は記憶に残る。

佐渡島
そうですね。作家の世界ツアーというのは考えたことはありませんでしたが、重要ですね。世界中で日本のマンガが支持されて売れる仕組みをつくっていきたい。マンガ家個人の価値を上げて、作品自体の価値をもっと上げていくことで、世界で作品が受け入れられるための選択肢は増えていくはずです。僕はそのサポートがしたいんです。

みなもと
原画1枚にだって凄い価値があるわけでしょう。前回のメディア芸術祭マンガ部門で大賞を獲った『闇の国々』なんて、彼らはフランスでは原画を売ったりしているはず。日本のマンガには素晴らしい原画がいくらでもあるのに、マンガ家が死んじゃうともうどこに行ったか分かりゃしない。あるいは出版社の倉庫に眠っていることもある。


マンガはアートか?

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ちょっとお話に介入してもよろしいでしょうか。ある意味では、メディア芸術祭というものが、マンガの新しい価値を発見したり、顕彰をする場でもありうると思います。みなもとさんがおっしゃったように昨年の『闇の国々』の展示では、原画が芸術品に匹敵するということを示唆していました。

みなもと
そうですね。

佐渡島
中には原画に価値が付くのが嫌だっていうマンガ家もいますよね。僕はいろいろな考え方があると思っています。原画に価値があるという人、そうではないという人がいても良くて、どちらかの考え方を強制するのは良くないのではないかと考えています。

みなもと
戦前から昭和30年頃までの挿絵とか、その前の竹久夢二や初山滋の作品が復刻されても、雑誌や絵本からの複写ばっかり。原画なんて、どこにあるか分かんない。浮世絵と一緒で、ボストン美術館に行かなきゃ自分とこの国の文化が分からないという状況に既になりつつある。文学であれば、原稿がなくなったとしてもボロボロの文庫本が一冊あれば、いくらでも出し直せるけれど、マンガはそうはいかない。


マンガというものが複製メディアであると同時に、アートピースでもありうるわけですね。

佐渡島
両方の価値があると思います。でも、アートに閉じこもってしまって表現を更新しなくなっても問題です。常に大衆文化に開かれて、更新し続けているところにマンガの魅力があったわけですから。
先ほど「今のマンガが面白いですか?」って伺ったのは、そこなんです。僕は最近の作品は面白いものが少ないと思っています。これまでのマンガを真似てマンガをつくってばかりいる。みなもとさんの作品では、突然他の作家のキャラクターが登場していたり、いろいろな表現方法の提案を行ってたじゃないですか。

みなもと
私は昔からやりたい放題だったよ。今は、あの頃よりもマンガ家たちに編集者が随分縛りかけているんじゃないのか、としか思えない。私はデビューが小学館で、当時の担当から「編集者を何十年もやってきたけど、お前みたいに言う事聞かない奴ははじめてだ」と言われてデビューしてますから。むこうが「こう直せ」って言っても、「これを直すと話分かんなくなるからできない」って言って大ゲンカしたり。
『ホモホモ7』(※2)だって栗原さんの話はまったく聞かなかったね。栗原さんはなまじ教養あるものだから「お命頂きやす」を俺が「ギブ・ミー・ライフ」とするのをどうしてもダメだと言い張るわけだよね。これは「ユー・シャル・ダイ(You shall die)」であると。しまいには「モノマネはいかんですよ」なんて言われてさ(笑)。徹夜でケンカしたのが、20代の楽しい思い出だなあ(笑)。


才能はいつも外からやってくる

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メディア芸術祭で受賞するマンガの中には、メジャーではない作品も多く含まれています。メディア芸術祭が示しうる、新しいマンガの価値観というものもあるとお考えでしょうか?

みなもと
それは審査委員次第だね。新しい感性に反応するアンテナを張っていられるか。

佐渡島
業界的にメディア芸術祭の影響力って具体的にはまだまだ見えづらいですよね。

みなもと
ただ、今回は功労賞にコミティア実行委員会代表の中村公彦さんが受賞されています。これは画期的なことだと思います。

佐渡島
ああ、そうなんですね! それは、うれしいニュースですね。

みなもと
過去10年、コミティアを母体として生まれてきた作家たち、いわゆる商業誌ではなくて自分で好きで描いてコツコツやってきたマンガ家たちが認められるようになってきたわけですよ。『鈴木先生』の武富健治さんや、『夕凪の街 桜の国』のこうの史代さんがそうだった。一昨年に大賞を受賞した『土星マンション』の岩岡ヒサエさんや、去年優秀賞の『凍りの掌 シベリア抑留記』のおざわゆきさんもそう。コミティアの中で育った人たちがガンガン賞を取っているわね。これはつまり、次世代の才能は、マンガの主流からは絶対出ないということ。


主流というのは?

みなもと
メジャーなマンガ雑誌。戦前からマンガの立派な文化があったわけですが、結局次の世代を担ったのは、当時の出版界で鼻も引っかけてもらえなかった赤本マンガ(※3)から登場した手塚治虫だった。そして私が子どもの頃は、手塚風に描かなければ雑誌に載せられないよ、と編集者が言う時代になっていたけれど、実際に次の主流になったのは貸本劇画で、やがてこれが1960年代後半から70年代にかけてマンガ界の主流になった。


才能は常に外側からやって来るんですね。

みなもと
そう。そして、その後に世界を揺るがす「萌え」の文化を育てたのが、コミケやコミティアなどの同人誌即売会だった。現に、いまメディア芸術祭に登場するマンガ家の多くがコミティア出身で、そのコミティアの元締めである中村さんに今回功労賞が贈られるというのは非常に理にかなった話。「まだ50歳の中村さんに功労賞というのは早いのでは……」という声もあったけれど、年功序列の賞にしてしまっては寂しいでしょう。だから、今回中村さんが受賞したおかげで、功労賞というものが現役バリバリでマンガに関わっている人にも向けられた賞に意味が広がったと思うな。


最後にメディア芸術祭に対する期待をお伺いできますでしょうか?

佐渡島
賞というものは、授与する側の本気度が問われますよね。数年で終わってしまうような賞は、受賞側もうれしくない。文化庁メディア芸術祭は、継続してきて、段々と存在感を増してきているように思います。マンガは、小説の芥川賞や直木賞と違って、世間にしっかりと認知されている賞が存在しません。メディア芸術祭がそのような賞へと変貌してくれることを、マンガに関わっている身としては期待したいです。

みなもと
そうですね。マンガ家の1人として感じるのは、メディア芸術祭はまだまだマンガ界へのアプローチが弱いなあってこと。世間の認識が朝日新聞社の「手塚治虫文化賞」や「日本漫画家協会賞」ほど浸透していない。アニメ、エンターティンメント、アートの各部門に、世界中から優れた作家や作品が寄せられて顕彰されているし、海外展開でもかなりの実績があるけれど、マンガ部門の受賞作が「このマンガがスゴイ!」ほど話題にならないのは残念です。もちろん、それだけマンガは「大衆」のものであるという証左でもありますが、もう少しフレキシブルな展開を見たい。うーん……最後にどうも「辛口」なこと言っちゃったかな(笑)。とにかく大いに期待しているんですヨ!

※1=栗原良幸は、週刊『モーニング』『月刊 アフタヌーン』の初代編集長。みなもと太郎だけでなく、手塚治虫、ちばてつやらを担当した。第14回文化庁メディア芸術祭で功労賞を受賞。

※2=『週刊少年マガジン』(講談社)にて1970年30号から1971年13号にかけて連載されたスパイもののパロディを中心としたギャグ漫画。

※3=1930年代に急増した描き下ろしのマンガ本で、駄菓子屋や露店などで販売された。手塚治虫の『新宝島』の人気を受け、全国的な赤本マンガブームが起きた。

 

過去最多となる応募があった今年のメディア芸術祭。
受賞作品が一堂に会する『文化庁メディア芸術祭受賞作品展』は2014年2月5日(水) 〜 2月16日(日)※の12日間に渡り、東京・六本木の国立新美術館 を中心に開催されます。
※ 2/12(水)休館

メディア芸術祭公式WEBサイト ⇒ http://j-mediaarts.jp/
※公式WEBサイトでは歴代の受賞・選出された受賞作品・受賞者情報を一覧で見ることが出来ます。

次回の『メディア芸術祭を語る』はメディアアート分野の対談をお送りします。(2月更新予定)

聞き手・文章:島貫泰介