2015年2月4日から15日まで、国立新美術館をメイン会場に、平成26年度[第18回]文化庁メディア芸術祭受賞作品展が開催されている。 今年度の「文化庁メディア芸術祭」(以下、芸術祭)は、世界71カ国・地域から3,853作品の応募があり、国内応募数は2,035作品と過去最高となった。その中から選ばれた受賞作品と功労賞受賞者の紹介が展示の中心となるが、単なる展示にとどまらず、作品の理解を深める様々な仕掛けが施されている。

※第18回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展会場(国立新美術館、以下会場)の様子

●満遍なく作品を鑑賞できる会場構成

芸術祭の会場は、三箇所に分かれている。
メイン会場の国立新美術館では、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門の受賞作品や功労者受賞者の紹介が中心。会期中には、シンポジウムやワークショップなども数多く開かれる。
シネマート六本木は、映像作品をスクリーンで鑑賞できるほか、マンガ作品などを自由に閲覧できるマンガライブリーが開設されている。スーパー・デラックスは、会期中の4日間、トークやパフォーマンスイベントを開催する会場だ。

今回は、メイン会場となっている国立新美術館での展示を中心にレポートをお届けしたい。

会場構成やインスタレーション作品の展示に関してアドバイザーを担当した、アート部門の審査委員である高谷史郎氏によると、 メディア芸術祭の受賞作品展の場合は、通常の展覧会のようにテーマやコンセプトにもとづいた作品展示というより、作家の意向を一番に考え、かつ、できるだけ鑑賞しやすい会場構成にすることがもっとも重要になるとのこと。
今年の会場構成は、導線がはっきりとしているのが特徴だ。来場者は、導線に添って歩いていくと、アート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門、マンガ部門の順番で、ごく自然にすべての展示を鑑賞でき、功労賞の展示は、これら4部門をつなぐように配置されている。

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※アート部門(赤)、エンターテインメント部門(青)、アニメーション部門(橙)、マンガ部門(緑)の順で並び、

それらをつなぐように功労賞(灰)が配置されている。受賞作品展ガイドブックより転載


●アート部門の巨大な展示作品
それでは、各部門の作品を個別に見ていこう。

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アート部門では、大型の二作品が人目を引くだろう。
入場して最初に目にするのは、アート部門の優秀賞を受賞した、坂本龍一/真鍋大度の『センシング・ストリームズ―不可視、不可聴』。人間が知覚できない電磁波を感知(センシング)し、可視化・可聴化するインスタレーション作品だ。
設置されているアンテナが電磁波を収集し、そのデータが巨大な大型ビジョンとスピーカーを通じてリアルタイムで可視化・可聴化される。鑑賞者は設置されているコントローラーを使って周波数を変えたり、複数の映像モードをスイッチしたりすることができる。
実際にこの作品に接した人は、4KVIEWING®による大型ビジョンの迫力に圧倒されると同時に、普段は意識することのない電磁波の流れ(ストリームズ)の存在にあらためて気づかされるに違いない。

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『センシング・ストリームズ―不可視、不可聴』 メディアインスタレーション 坂本 龍一/真鍋 大度(日本)

同じくアート部門の優秀賞を受賞したCod.Actの『Nyloïd』のメディアパフォーマンスも必見だ。床の三箇所に設置されたエンジンから、それぞれ6mの長さの三脚の足が伸びて鋼鉄の筒で結合されている。パフォーマンスが始まると、この三脚が「ぐにゃぐにゃ」と動き出す。おおらかに弧を描いたと思ったら、突然、床にたたきつけられる。そして、動きに連動して肉声を分解した音が発せられる。
その姿は、どこか巨大生物の苦しみや断末魔を想像させる。三脚の動きと音の組み合わせは、鑑賞者に様々なイマジネーションや感情を喚起するだろう。
このパフォーマンスは、2月4日から8日までの5日間限定となっており、それ以降は作品展示とパフォーマンス映像を見ることができるようになっている。

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『Nyloïd』Cod.Act (Michel DÉCOSTERD / André DÉCOSTERD)(スイス)


●リアル空間とネット空間の接続――エンターテインメント部門
エンターテインメント部門では、リアル空間とネット空間の接続をテーマとする作品や両者が結び付くことで成立する作品が目立っている。

大賞を受賞した『Ingress』は、GPSの位置情報と世界地図のデータベースを用いて、プレイヤーが世界規模で陣取り合戦を行うゲーム。会場では、本展のための特別展示として、三面プロジェクションで『Ingress』のAPIを活用した映像とともに、ゲーム内に登場する「Power Cube」のオブジェも展示されている。
なお、2月15日には、エンターテインメント部門の審査委員飯田和敏氏と米光一成氏を講師として、『Ingress』初級講習会も開催される。(http://j-mediaarts.jp/events/workshop#12_1)※定員に達したため、現在申込受付は終了。

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『Ingress』Google’s Niantic Labs(創業者:John HANKE)(米国)

優秀賞を受賞した下浜臨太郎氏/西村斉輝氏/若岡伸也氏による『のらもじ発見プロジェクト』の「のらもじ」とは、町のあちこちにある看板の手描き文字のこと。同プロジェクトは、この「のらもじ」をコンピュータで分析して、使用可能なフォントを制作。さらに、このフォントをウェブ上でオープンソースとして配布している。
展示ブースには体験コーナーがあり、設置されたキーボードで文字を入力すると、モニターに映されているお店の写真の看板にその文字が映し出されるようになっている。名も無き手書き文字を後世に残す同プロジェクトは、タイポグラフィの「民藝運動」とも呼べるものと評されている。

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『のらもじ発見プロジェクト』下浜 臨太郎/西村 斉輝/若岡 伸也(日本)

新人賞を受賞したFlorian BORN氏の『Auto-Complain』は、問題解決型のアプリケーションだ。このアプリケーションをインストールしたスマートフォンを自転車に搭載して走行すると、道路の凹みを検知し、その位置を地図上にマッピングすることができる。このマップをPDFファイルにして行政の担当部署に送ることで、道路の改善を促すことも作品の狙いとされており、作品名『Auto-Complain』には、その意が汲まれている。
今回の展示では、作家が特別に東京バージョンを制作。実際に作品を使用した東京の街の映像や、凹みを記した地図を見ることができる。


●上映スペースの設置と詳細な設定資料の展示――アニメーション部門
 アニメーション部門の大賞作品は、ロシアのアンナ・ブダノヴァによる短編アニメーション『The Wound』。同作は、心の傷(wound)を抱える少女と、その傷が形象化されて誕生した毛むくじゃらの生き物ウーンドとの交流から始まり、やがてウーンドによって彼女の人生がコントロールされていく様子を描いたもので、ブタノヴァ氏本人の体験にもとづいて作られたという。
 展示では、作品を座りながらじっくり鑑賞できる上映スペースが特別に開設されているほか、作品の制作過程がわかる直筆スケッチやビデオコンテも展示している。26歳の若手監督だが、審査会では「巨匠の風格すら感じさせる」というコメントまで出たほどの作品なので、ぜひ実際に鑑賞してみてほしい。

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『The Wound』短編アニメーションAnna BUDANOVA(ロシア)

 アニメーション部門の展示では、絵コンテやレイアウト、色指定など制作過程の資料を直に見ることができることも楽しみの一つ。優秀賞を受賞した『映画クレヨンしんちゃん「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」』(高橋渉監督)や、新人賞を受賞した山田尚子の『たまこラブストーリー』(山田尚子監督)などでは、キャラクターについての詳細な設定資料が展示されており、アニメーション業界を志す人たちにとっても大いに参考になりそうだ。

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『映画クレヨンしんちゃん「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」』高橋 渉(日本)

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『たまこラブストーリー』山田 尚子(日本)

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●作家の存在感が伝わる原画や使用画材も展示――マンガ部門
 マンガ部門の展示は原画や作者の仕事場を写したパネル、普段使用している画材などが中心に展示されている。
マンガ部門の大賞を受賞した『五色の舟』(近藤ようこ/原作:津原泰水)は、太平洋戦争末期を時代背景に、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ異形の者たちの哀切な運命を描いた作品。展示では、第1話から第4話までを直筆原稿で読むことができるようになっている。原画でマンガを読めるような機会は滅多にない。審査委員会で「ほぼ一秒で決まった」というこの作品の魅力をその目で体感してほしい。

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『五色の舟』近藤 ようこ/原作:津原 泰水(日本)

 優秀賞を受賞した『アオイホノオ』(島本和彦)は、作品の舞台となっている1980年代のマンガ業界の熱気を伝えるべく、実際に作中にも登場する当時のマンガ作品のスクラップや島本和彦氏自身が学生時代に制作したマンガ原稿などが並べられている。
 一般に、原画を中心とするマンガ展示は、作品の一部を抜き出さざるをえないという制約がある。その制約のなかで、今回の受賞作品それぞれの展示方法や工夫を比較しながら見てみると、様々な気づきがあるかもしれない。

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『アオイホノオ』島本 和彦(日本)

 また、前述したように、国立新美術館から徒歩約9分の場所にあるシネマート六本木では、マンガライブリーを開設しているので、メイン会場での展示で関心をもった作品があったら、ライブラリーを訪れてみるのもオススメだ。

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マンガライブラリーの様子


●現代への連続性を伝える功労賞展示
功労賞の展示は4部門をつなぐように配置されている、と先ほど述べたが、これについても触れておきたい。
今回、山本圭吾氏のビデオアート作品『ネットワークゲーム「Five Pines」』、岩政隆一氏の自立分散システム『Symphonic Object』がそれぞれ展示されている。山本氏の作品は「見ること、見られること」という関係性や、遠くにいる人とのコミュニケーションについての意識を促すものであり、岩政氏の作品は人工物で骨格的構造であるトラスが、空気圧アクチュエーターとコンピュータ制御によって「やわらかさ」を持つことを追求した作品だ。どちらも発表されてからかなりの年月が経っているが、現在でも有効な普遍性を持った作品であるということが、他の受賞作品と並べられることでより際立ってわかるだろう。
また、渡辺泰氏のコーナーで展示されているウォルトディズニーと手塚治虫のサインや、小野耕世氏のコーナーで展示されているこれまでに翻訳、出版された書籍の数々も貴重な資料だ。当時、海外のアニメーション作品やマンガ作品に触発され、積極的にに作家らと交流を行っていたことがよくわかる。
さらに、今回は功労賞受賞者4名へのインタビュー映像があり、現代へ脈々と続くその分野の歴史を語っている映像となっている。この映像自体も貴重な資料と言えるだろう。また、映像内では現代の若者に向けられたメッセージなどもあって常に時代の流れや未来を意識し活動されてきた4名の思いが感じ取れるものとなっている。

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上段左:山本圭吾氏のビデオアート作品『ネットワークゲーム「Five Pines」』

上段右:岩政隆一氏の自立分散システム『Symphonic Object』
中段:渡辺泰氏の展示コーナーの様子
下段:小野耕世氏の展示コーナーの様子


●約150の多彩なプログラムを展開
 さて、駆け足でメイン会場の4部門の展示を紹介してきたが、芸術祭の見どころは展示だけに留まらない。
 アニメーション部門、エンターテインメント部門、アート部門の受賞映像作品や審査委員会推薦作品は、メイン会場の研修室やシネマート六本木で特別プログラムを組んで上映される。
 また、会期中に行われるトークイベント、パフォーマンス、ワークショップなどを合計すると、約150回のプログラムになるという。すべて参加費や入場料は無料。詳細は、メディア芸術祭のサイト(http://j-mediaarts.jp/events/about?locale=ja)で確認できる。
 メイン会場では、解説付きで作品を鑑賞できるガイドツアーも実施しており、小学4〜6年生を対象としたガイドツアーも会期中に3回実施される。小学生のツアーでは、展覧会会場内に配布された「探検カード」を集めながら、作品を体験した感想を綴る自分だけの作品集をつくることができる。

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第18回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展
会期:2015年2月4日(水)から2月15日(日)
会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)10:00〜18:00
    ※金曜は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで  ※2月10日(火)休館
   シネマート六本木(東京都港区六本木3-8-15)
   スーパー・デラックス(東京都港区西麻布3-1-25 B1F)
     ※開館時間、休館日は会場によって異なります。
入場料:無料(全てのプログラムが参加無料。)
詳細→http://j-mediaarts.jp/

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