2015年から2年間、ドイツ文化センター(ゲーテ・インスティテゥート)の提案で芸術的・知的研究を通してアジアの現況を再検討し、理解するための国際交流プロジェクトが実施される。同センターは、日本、韓国、中国、台湾の東アジアの4カ国から、神谷幸江氏、キム・ソンジョン(Sunjung Kim)氏、盧迎華(Carol Yinghua Lu)氏、黄健宏(Chien-Hung Huang)氏の4人のキュレーターを招聘し、プロジェクトのテーマとして「調和=ハーモニー」を提示した。

興味深いのは、このテーマに応えてキュレーター・チームの提案した概念は「不調和音のハーモニー(Discordant Harmony)」だったことだ。アジアを凝集された政治的/文化的共同体としてみることは誤解であり、アジアの国家は統一された政治連合が出現するほどの共同の地平を共有していないという事実こそが、4人の合意した基本的な前提だったからである。

この前提に基づいて、キュレーター・チームは、「アジア」は地理学的な概念ではなく、各国のそれぞれ異なるイデオロギーと歴史観の所産であり、政治的な仮説として機能している、と論じている。したがってこのプロジェクトは、ヨーロッパのアジアへの認識に対するアジア側の応答ともいえよう。

上記のテーマと認識のもとで相互議論を重ねながら、各国固有の文脈のなかで徐々に発展していく予定の本プロジェクトの最初の展覧会が、2015年2月7日から3月29日まで、韓国ソウルのアート・ソンジェ・センターで開催されている。東アジアの政治的起源と文化的・歴史的表現の差異と不一致を認め合うことを目標とする本展には、日本、韓国、中国、台湾出身の12人のアーティストが参加していて、日本からは高嶺格氏、田中功起氏、千葉正也氏が出品している。

12人のアーティストには以下の質問が与えられた。

1)ハーモニー、あるいは不調和音のハーモニーについてあなたはどういう印象をもっているのか。
2)アジア(あるいはあなたがアジアとみなす概念)とは何か。
3)「アジア」について何を言いたいのか。
4)あなたの作品のなかでこれらの質問に対して答えるために参考となる作品に何があるのか。

そのほか、会場で上映されている、キュレーター・チームによる各界の学者とのインタビュー映像が後日ウェブ上で公開される予定だ。神谷氏は、四方田犬彦氏と岡田利規氏とそれぞれ「メロドラマ的想像力:東アジア映画の越境」と「演劇とアジアのローカル・メディウムとしての身体」をテーマにインタビューした。

韓国国内のマスメディアによってもっとも頻繁に取り上げられた作品は、田中功起氏による《A Piano Played by Five Pianist at Once (First Attempt)》(2012年作)だった。異なる背景をもっているピアニストたちに1台のピアノを同時に即興演奏するという課題を与え、そのコラボレーションのプロセスを描いているこの映像作品が本プロジェクトのヴィジョンを象徴的に示しているからであろう。

そのほか、2005年の福岡アジアビエンナーレと2014年横浜トリエンナーレなどで強烈な映像作品を発表してきた陳界仁(Chen Chieh-jen)氏による歴史の記憶喪失に関する大作《Empire’s Borders II – Western Enterprises, Inc.》(2010年作)をはじめ、日本語に翻訳された中国の歴史教科書から世界大戦の箇所を選んで、中国語で漢字の部分を、日本語でそれ以外の部分のみを不気味に笑いながら読み上げる2チャンネルビデオ作品《Storical Affairs》(2006年作)を発表した、香港の非営利美術空間Para Siteの共同設立者でもある梁志和(Leung Chi Wo)氏と、京都国際舞台芸術祭で発表した《Japan Syndrome – Berlin version》(2013年作)の記録映像と2012年水戸芸術館で行った個展「Cool Japan」の大型図録を発表した高嶺格氏も観客に強い印象を与えていた。

上記の質問リストから察することができるが、2年間のプロジェクトのなかで今回の展示は、「不調和音のハーモニー」というコンセプトを軸に、アーティスト自身が応答として提示した既存の作品がアジアという文脈上に再配置された時に浮かび上がる、新しい想像力のプラットフォームを提示するものと位置づけられる。

筆者自身が千葉正也氏の《Self-Portrait #3》(2015年作)に心を打たれた理由は、まずこの事実に起因する。千葉氏は、パフォーマーの顔に自分の自画像を描き、自分の作品のモチーフが設置されたギャラリーの地下駐車場のなかでテコンドーの実演を行ってもらった後、その顔を拓本し、自分とパフォーマーのサインを入れて、記録映像と一緒に展示した。半分ずらして描かれた自画像のため、パフォーマーの顔はどっちの顔でもないグロテスクさを帯びるが、紙に写されたその顔は作者自身の顔にそっくりと似ていて、完璧に作者自身に還元されている。ただ、皺になった紙の上に写されたその表情は、キリストの受難を描いた絵画を連想させるくらい、苦しそうに見える。異なる歴史認識と物差しでお互いを認識してきたアジアの諸国が、他人の顔を通して自分自身を再確認し、新しい自画像を描いていくプロセスは苦痛を伴うに違いない。しかし、そのプロセスを共有し続けることは、未来に向けて奏でられる、不調和音のハーモニーとして歴史のなかで記憶されるのであろう。

本プロジェクトが広島市現代美術館に巡回してくるまではまだ10カ月待たなければならないが、このテーマに関心を持っている人なら、世界的なアーティストのアントニ・ムンタダス(Antoni Muntadas)氏のプロジェクト《On Translation》と《Asia Protocols》に関心を持つはずだと思う。横浜のBankART1929で約1カ月間滞在制作中であるムンタダス氏の講演会が2015年2月28日に開催される予定なのでお見逃しなく(入場無料・事前予約制)。

アジア国際交流プロジェクト「不調和音のハーモニー」展
http://goethe.de/harmony