◆中堅ゲーム会社・学校が渋谷ヒカリエに集結

heat1.jpg
△開場するや否や、各ブースに情報をもとめる学生たちで、長蛇の列ができた。

ゲームクリエイターになるには、どうしたらいいのだろうか。答えはシンプルで、ゲーム会社に就職することだ。ゲーム業界はほとんどのクリエイターが企業に所属する「社員クリエイター」だからだ。大学や専門学校を出たばかりの新人が、ある程度の年収を得て、生活の憂いなく創作活動に打ち込める環境が用意されている。ある種、恵まれた産業だと言えるだろう。

就職活動も他の業界と大きな違いはない。企業のホームページや就活サイトなどからエントリーシートを送り、課題提出、筆記試験、面接などを経て内定を得るというのが一般的。一方で業界特有の問題もある。学生の関心が一部の大手パブリッシャー(販売会社)に集中しがちなことだ。大手から順番に就活を行い、次々に撃沈して心身ともに疲弊し、他の業界に流れていく……そうした学生も少なくない。

heat2.jpg
△人数は少ないものの、日本人学生にまじって留学生の姿もみられた

heat3.jpg
△アーティスト志望の学生にとって必須となるポートフォリオの制作セミナー

こうした現状をふまえて、ここ数年で中小ディベロッパー主体の会社説明会が増加している。2016年12月3日に渋谷ヒカリエのDeNA本社で開催された「HEAT 5th 渋谷〜ゲーム会社合同セミナー〜」もその一つだ。今回で5回目を迎えるイベントで、企業31社、学校12校、学生437名が参加。ブースでの企業説明、エンジニア志望学生のための技術講演、ポートフォリオやゲームコードのレビュー会など、さまざまな催しが行われた。

会場の会場ブースにはDeNAを除けば、サイバーコネクトツー、ヘキサドライブ、マトリックスなど、社員規模が数十名〜数百名規模の企業が並んだ。自社IP(Interllectual Propery=知的財産)に乏しい企業が多く、パブリッシャー経由でゲームが販売されるため、学生にとって知名度が低く、採用活動で不利となる。「あの有名タイトルをこの会社が作っていたのか」と、驚く学生の姿も見られた。

HEATでは大学や専門学校のブース出展もみられた。東京工科大学、ヒユーマンアカデミーなど12校が出展し、学生作品の展示が行われた。企業の人事担当者は自社出展のかたわら、こうした学校ブースを見学し、作品を制作した学生や学校教員と直接コンタクトが得られる。学校側も企業の人事担当者とコンタクトを取ることができ、他の学校同士で情報交流もできる。それぞれの立ち場の参加者にとって利益が得られるように配慮されている。

heat4.jpg
△学生にとっても企業にとっても情報が効果的に得られる場となっている。

◆企業に立ちはだかる大学の壁

もっとも、こうした合同就活セミナーは企業にとっても、学生にとっても、まだまだ例外的な存在だ。知名度に劣るディベロッパーでは、ゲーム専門学校を中心に学校をまわり、学校単位で会社説明会を開催する例が多い。こうした説明会をきっかけに、学生からエントリーシートを送ってもらうというスタイルだ。各学校の教員と個別にコネクションを作り、優れた学生を推薦してもらうやり方も根強く残っている。

しかし、このスタイルには限界もある。ゲーム系の専門学校には有効でも、大学での開催が難しいのだ。大学にとってゲーム業界は数ある産業の一つにすぎず、学生の多くもゲーム業界(特に中小ディベロッパー)に高い関心があるわけではない。そのため、学内に熱心な教員がいない限り、企業説明会の開催は難しくなる。一人でも優秀な学生を採用したい中小ディベロッパーにとって、この「大学との壁」は依然として高く存在している。

heat5.jpg
△神奈川工科大学ブース

heat6.jpg
△日本工学院ブース

一方でHEATの側も課題がみられた。最大の問題は場所だ。HEATはこれまで東京と大阪で開催されており、東京では主催者のDeNAが本社セミナールームを提供することで、安価に開催できた。しかし、すでに場所の余裕がなく、これ以上規模を拡大することが困難だ。一方で地方の学生にとっては、まだまだ参加が難しい状況もある。規模の拡大と地方開催をどのように両立していくか。これはHEATのみならず、ゲーム業界の採用活動全体にとっても、大きな課題といえるだろう。

◆業界の人手不足はどこから来るのか

それにしても、ゲーム業界では慢性的な人手不足が続いている。その一方でゲームクリエイター志望の学生は数多く存在する。にもかかわらず、企業は内定を出し渋る傾向にある。大手は新卒一括採用が基本でも、中小企業では中途採用とあわせて、新卒でも通年採用を行う例が増加中だ。つまり「いい人がいれば人数や時期を問わず、いくらでも採用したい」のが本音でも、求める人材のハードルが高く、採用にいたらないというのが実情だ。このミスマッチはどこから生まれるのだろうか。

HEATでも現役ディベロッパーの経営陣によるパネルディスカッション「社長トーク」で、このテーマについても議論がなされた。パネリストはヴァンガードの杉山智則氏、ヘキサドライブの松下正和氏、東京工芸大学教授で『ゼビウス』『ドルアーガの塔』の生みの親として知られる遠藤雅伸氏だ。司会はHEATを立ち上げた一人で、現在はファリアー代表の馬場保仁氏がつとめた。

heat7.jpg
△左から杉山智則氏、松下正和氏、遠藤雅伸氏、馬場保仁氏

出席者が異口同音に語ったのが、「ゲーム業界の変化の速さ」だ。「学生に求めるのは『人間性』『学び続ける姿勢』『負けない心』。特に『学び続ける姿勢』は重要で、ゲーム業界では新しい技術がどんどん出てきて、お客様の興味も移り変わっていく。それらに的確に追いついていくためには、新しい技術を学ぶための下地となる技術的素養が求められる。そのためにも、学生の間に基礎をしっかり身につけて欲しい」(杉山氏)

「ゲーム作りに必要なスキルを、熱意をもって学んでいるかが重要。ゲーム作りは集団作業なので、人間性や協調性といった部分も必要になる。せっかくいいものをもっていても、自分の長所をうまく出せない学生もいる。自分の体験からしか出せない言葉があるはずなので、そこをうまくアピールして欲しい。企画志望の学生については、社員と半日程度のグループワークをやってもらい、そこで判断するようにしている」(松下氏)

「『好きなことしかやりたくない』なら、趣味でゲームを作ればいい。『学校で学んだ内容を活かしたい』なら、そのまま研究者になればいい。『新しいことがしたい』のなら、何がこれから新しい技術として登場するのか、その見極めから始めなければいけない。ソーシャルゲームもVRも、かつてのオンラインと同じように、すぐに当たり前の要素になっていく。学生が新しいと思っていることは、たいてい新しくない」(遠藤氏)

heat8.jpg
△歯に衣着せぬ本音トークで議論が盛り上がった。

◆日本的雇用慣行の下で求められる施策とは

こうした議論の背景にあるのが、新卒一括採用と終身雇用を前提とした「日本的雇用慣行」だ。ある企業の正社員になることは、単に仕事をするだけでなく、定年まで、家族を含めて社会保障を受けることを意味している。そのため企業側にとっても、正社員を解雇することが極めて難しい。高度成長期に作られたこのモデルが、現状では制度疲労を起こしつつあることは、良く指摘されているとおりだ。

特にゲーム業界では技術進化が激しく、ヒット作の有無で業績が大きく変動するため、会社にとっても明確なキャリアパスを設定することが困難だ。そのため「できる社員」ほど転職を通してキャリアアップが図れる一方で、社内に「できない社員」が取り残されるリスクを排除できない。個々の社員が自己研鑽を通して企業活動に貢献するのが理想だが、変化を嫌い、決められた業務しかやりたくない社員がいることも事実だ。

こうしたリスクを嫌って、できるだけ優秀な学生を採用したい、少なくとも「迷ったら採用しない」という保守的な採用傾向が見られることが、「人手不足だが採用が増えない」現象の背景にある。企業の中には一定期間を契約社員として採用し、働きぶりをみながら正社員に引き上げる例もあるが、「最初から正社員採用」が主流の中では、採用活動で不利になるのは避けられないだろう。

また、ゲーム業界で求められる技術水準が上昇するにつれて、学生に求められる資質や条件も上がっている。ファミコン時代なら可能性重視で採用し、社内でじっくり育てるやり方もあり得たが、昨今は企業側にそうした余裕がなく、即戦力を求めがちだ。そのため業界的に中途採用のニーズが高いが、若手の人材育成にコストをかけない業界は、いずれ先細りになる。こうした中、どこの企業も迷いながら採用活動を続けているのが現状だ。

このように人材採用と、採用後の人材育成は表裏一体の関係にある。業界の慢性的な人手不足を解消し、ゲームのクオリティを上げるには、企業と学校(特に大学)で共通のトレーニングカリキュラムを作成するなど、人材育成に関する議論を深めることが重要だ。HEATをはじめとした合同就活セミナーは、そうした対話作りの一環になる。こうした機会を次々に増やしていくことが、業界全体の課題だといえそうだ。