現在、IZU PHOTO MUSEUM(静岡県)で開催中の展覧会「ヨヘン・レンペルト|Fieldwork―せかいをさがしに」の関連イベントとして、美術評論家の松井みどり氏による特別レクチャーが2月26日におこなわれる。

 ヨヘン・レンペルト(Jochen Lempert, 1958-)は、ドイツ出身の写真家で、ハンブルクを拠点に活動している。1979年よりシュメルツダヒン(Schmelzdahin, 「溶け去る」の意)の一員として、事物の移り変わりに注目した実験的な映像制作をおこなってきた。このグループは1989年に解散し、レンペルトは1990年代より写真による表現活動を始めた。あわせて彼は1980年よりボン大学にて生物学を学び、自然科学にも精通している。

 バンクーバー現代美術館(カナダ、2016)、シンシナティ美術館(アメリカ合衆国、2015)、ハンブルク市立美術館(ドイツ、2013)など、近年世界各地の美術館で個展が開催されているレンペルトであるが、今回の展覧会が日本での初の個展となる。その作品は、生物学の知見をベースにした自然の精緻な記録であり、独自の世界観に根ざしている。

 例えば、《対称性と身体構造》(1995-2016)というシリーズは、「日常生活を含め目にすることのできるあらゆる物体の体つきを撮影した」作品である。例えば、《対称性と身体構造》(1995-2016)というシリーズは、「日常生活を含め目にすることのできるあらゆる物体の体つきを撮影した」作品である。脊椎動物の進化への興味を端緒に、対称性や神経・感覚器官の配置といった身体的特徴に着目した初期から展開し、様々な物体の身体つきや姿勢といった種を超えたフォルムのヴァリエーションや、柔らかさや内外といった対概念により捉えられたイメージの連なりから豊かな世界が感じられる。また、《オオウミガラスの表皮》(1990-2016)は、19世紀中頃に乱獲により絶滅したオオウミガラスの剥製を撮影したシリーズである。この海鳥は、北大西洋から北極海に生息しており、その見た目も動きもペンギンに近似していた。レンペルトは、各国の自然史博物館に収蔵されている剥製の頭部を同じ方向から撮影し続けている。博物学的な中立的アプローチによって、かえってそのフォルムと斑が際立っている。どちらのシリーズにおいても、反復とそこから生じる差異を指摘することができるだろう。

 松井みどり氏は、日本、英米の近現代美術について多数の著作を発表されている、日本を代表する美術評論家のひとり。著書に『アート:”芸術”が終わった後の”アート”』(朝日出版社、2002)がある。レクチャーでは、レンペルトの写真作品の分析をとおして、彼の世界との関わり方を探る。イベント・ホームページによれば、「作家本人の発言や、動物行動学の先駆けともいえる生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱する「環世界」の概念、哲学者ジル・ドゥルーズによる「内在の平面」(プレーン・オブ・イマネンス)という考え方」を参照されるという。

 近年、人類学や哲学の領域において、人間中心主義的思考を相対化し、動物やモノといった視点から世界を捉えなおす試みがおこなわれている。レンペルトの個人的視線と、それによって示される逆説的な世界の「フラットさ」、人間と動物との一体性は、遠くこうした状況ともリンクするものではないだろうか。

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《対称性と身体構造》より 2005年

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《オオウミガラスの表皮》より 1990-2016年

© Jochen Lempert. Courtesy BQ, Berlin and ProjecteSD, Barcelona