2016年は東宝映画『シン・ゴジラ』が、邦画の実写映画では最大のヒットであった。新たにCGを駆使した映像による特撮シーンは現実には起き得ない空想上の出来事を、これまでになくリアルに描いていた。このような怪獣が都市を襲うイメージが日本人に鮮明に植え付けられているのは『ゴジラ』や『ガメラ』のような怪獣映画、現在もTVシリーズが作られ続けている「ウルトラマン」シリーズといった、空想ドラマの数々がもたらしたものといえよう。

 そんな日本独自の文化として盛り上がってきた特撮ドラマを通して、大都市・東京を見直してみようというのが「大都市に迫る 空想脅威展」の企画意図である。会場の解説によればこの”空想脅威”の定義とは、「都市という人工物を背景に繰り広げられる空想上の脅威を題材とします。実際に起こりうる自然災害や戦争、テロ等は対象になりません。また宇宙規模、地球規模で繰り広げられる物語についても対象としません。(中略)また、展示している模型は実在の都市ですが、展示中の”空想脅威”は全てフィクションです。」とされている。本展は2016年9月24日(土)〜11月13日(日)(現在は終了)を会期として、東京・六本木ヒルズ52階の「東京シティビューラウンジ」を会場に開催された。

 まず展示の見どころとして、公式HPでは以下の4つの見どころが上げられていた。
http://www.roppongihills.com/tcv/jp/event/kusoukyoui/

  1. 1. 怪獣の目線になれる!通常一般非公開の巨大都市模型を公開
  2. 2. 怪獣体験ができる!
  3. 3. ガメラ登場!守護者のもたらした空想脅威
  4. 4. 空想脅威年表

 その謳い文句のとおり、会場入り口を入るとすぐに、大映の映画『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)の撮影で使用された非常に精巧なディテールの模型が出迎える。

 そして展示会場の各所に、森ビル株式会社が制作して、通常は非公開の東京の精巧な巨大模型(1/1000スケール)が分割され、展示されている。この”東京模型”は、2012年開催の『館長 庵野秀明  特撮博物館』展のために制作された映像『巨神兵東京に現る』(樋口真嗣・監督)でも、東京の俯瞰シーンとして使われたことがあるが、この最初のコーナーで展示されているのは渋谷付近のエリアである。模型自体は空撮写真と現実のビルを撮影した画像を加工して、縮尺に合わせた模型の表面に貼り付ける事で、効率よく屋上や窓などのディテールを表現しているのだが、渋谷に近い会場の52階の窓からは模型と同じ現実の東京が見下ろせるため、思わず模型の建物のリアル感と、窓から見える風景と比較してみたくなる。しかし見慣れたはずの東京の街も、漠然と見るだけではただのビル群にしか見えないので、こうして視点を変えて見る場合には自分の知っている地域や身近な場所の目印を見つけて、自分が移動することを想定しながら頭の中で辿ってゆくといいだろう。空からの俯瞰で見ると建物の外観や距離などに、地図を見るのとは違った発見ができることも面白い。

 そして”東京模型”の明治神宮・原宿から渋谷にかけて見てゆくと、現在再建設中の渋谷駅周辺は、模型では再開発後のビルが先取りして作られていることがわかる。既に完成している「渋谷ヒカリエ」よりも高層のビルが渋谷駅の上に将来出来上がるのだが、模型ではすでにその景色が実現されているのである。

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渋谷駅周辺

 続いての展示コーナー”守護者のもたらした空想脅威 ガメラと都市の破壊描写”では、昭和と平成の怪獣・ガメラの模型や制作当時の資料を展示。映画のシナリオや絵コンテ、設定資料、スチールなどが並ぶ。また『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年)の宇宙怪獣・レギオンと自衛隊の戦力を比較したパネルと映像も展示されている。

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昭和と平成のガメラ

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ガメラの敵怪獣たち

 このコーナーの壁面には”空想脅威年表 怪獣編”と題してパネルが展示され、「1954-1965 大怪獣という空想脅威の誕生」で怪獣映画の誕生、「1966-1970 空想脅威、お茶の間へ」でTV番組の特撮シリーズの誕生、そして「1971-1975 新たなる空想脅威の表現」で第二次怪獣ブーム、「1973-1988 空想と現実の間で」でより現実寄りのパニック映画や巨大ロボットアニメ、さらに「1989-1999 ゴジラVSガメラの時代」で新たな怪獣映画が作られた平成に入り、「2000以降 21世紀の空想脅威とは」で現在とこれからの怪獣の脅威を解説している。

 続いて”空想脅威年表 悪の組織編”では、都市を破壊する怪獣以外の様々な悪の組織について解説パネルでまとめている。「1958-1970 正義の味方VS悪の組織」では月光仮面を始めとする正義のヒーロー、「1971-1977 跋扈する悪の組織」では仮面ライダー、「1978-1986 悪からのメッセージ」ではスーパー戦隊や宇宙刑事が登場。続く「1987-1999 多様化する悪の組織」ではバブル崩壊を時代背景に、悪の組織も多様化したことがわかるし、「2000以降 悪の組織の未来」では、平成仮面ライダー以降のヒーローが闘う相手の多様性についても解説している。

 なおこのコーナーの一方には、新宿周辺の”東京模型”が展示されている。

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新宿駅周辺 歌舞伎町のゴジラヘッドが見える

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新宿都庁・高層ビル群

 パネルはさらに続き、”東京を破壊した怪獣たち 『ウルトラマン』から読み解く空想脅威地図&図鑑”と題されたパネルで、TVシリーズ『ウルトラマン』に登場した怪獣と出没地域を一覧。また記念撮影コーナーでは、都市模型の向こうに、怪獣のように自分が出現する姿をモニター越しに見ることができる。

 展示の最後となる”都市模型で見る空想脅威 都市における最大空想脅威”のコーナーでは”東京模型”が、湾岸地域から品川、銀座、丸の内地域の巨大なジオラマを一気に見せて壮観極まりない。ジオラマの中にはさりげなく5体の怪獣フィギュアが置いてあり、何処にあるのかを探すのに、模型をくまなく見ることになるという趣向だ。これも観客に都市模型の細部に目を凝らさせるための工夫であろう。確かにこの縮尺だと、怪獣も玩具のフィギュアサイズとなってしまう。

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 ジオラマの壁面のスクリーンにはプロジェクターで、永井豪のマンガ『魔王ダンテ』の名場面のコマを投影し、また松宏彰監督、押井守監修のハイビジョン映像『東京スキャナー』を上映している。掲示の解説”空想脅威のオリジン-永井豪と悪魔の世界-”によると、1971年の作品『魔王ダンテ』は巨大怪獣モノとして発想した連載コミックだったが、掲載誌の休刊により悪魔と人間との全面戦争というクライマックスが描かれないで完結してしまう。だが、そのアイディアと世界観は、後の『デビルマン』(1972年)に引き継がれているという。『魔王ダンテ』では紀元前100万年の地球首都・ソドムが「神」により地獄と化すエピソードがあり、『デビルマン』ではデーモン族と人類に憑依したデビルマンとの戦いに、「神の軍団」まで動き出すエピソードがある。つまり悪魔だけでなく神さえも、裁定次第では人類社会の破壊者となり、恐怖をもたらすのである。

 もう一方の映像『東京スキャナー』は、2003年の六本木ヒルズのオープニング展覧会「世界都市展」のために制作された、ほぼ全編ハイビジョン撮影の短編映画である。作られたいきさつは森ビル元会長・森稔からの「今までに無いような都市の映像を作るように」というオーダーから、押井守監督のアニメーション映画『機動警察パトレイバー2』(1993年)の東京の”情景”の斬新な描写に感動していた担当者が、押井守に映像監修を依頼したのだという。シナリオ作りにあたって押井守は、当時のニュースで流れた中東のイラク戦争の無人攻撃機による空爆映像から感じたキーワードとして、「神の視点」を着想。そこから『東京スキャナー』の冒頭に、旧約聖書の「創世記」からの引用で、神が都市”ソドムとゴモラ”に天使を派遣して滅ぼすかどうか調べさせたという意味の文章を提示し、”潜水艦発射型無人視察ドローン”が「神の視点」で東京を調べるという設定で映像を作り上げたそうである。展覧会にしてはやや長文の解説のため、読み飛ばしてしまいそうだが、この展覧会企画の意図がここに読み取れ、改めて展示されている”東京模型”と52階の窓からの東京の風景を見直してみると、入場者は怪獣の視点どころか、神の視点で東京を見ることになる。つまり先の”怪獣や悪の組織”、『魔王ダンテ』や『デビルマン』の恐怖と、『東京スキャナー』の神の視点とは、都市を舞台として互いに向かい合わせの関係であることに気づかせられるのだ。

 なお会場にはカフェが併設されていて、そこで東京や都市、風景、特撮怪獣に関する書籍や雑誌、Mookが閲覧できるようになっている。

 かつて怪獣や怪人の脅威を描いた特撮映像に魅せられながらも、立派に成長した”大人”たちがその魅力の理由と正体を解き明かし、入場者に展示物のみならず、会場の外の東京の風景までも”神の視点”で再認識させてしまう。そんな仕掛けが圧巻のジオラマを中心に構成された本展は、2016年のエンターテインメント系企画展の中でもずば抜けてユニークな展示会であった。