平成28年度文化庁メディア芸術連携促進事業
マンガ翻訳コンテスト(Manga Translation Battle Vol.5)授賞式・シンポジウム

開催日:2017年2月16日(木)
会場:秋葉原UDXシアター
主催:文化庁、デジタルコミック協議会(http://www.digital-comic.jp/index.php
翻訳コンテスト公式ページ(https://myanimelist.net/manga_translation_battle_vol5

マンガ翻訳コンテスト(Manga Translation Battle)はデジタルコミック協議会と文化庁の主催により2012年度に第1回が開催され、今回で5回目を迎える。

マンガ翻訳家志望者の活躍の場を増やし、世界のより広い層に質の高い日本のマンガ文化を発信するプラットフォームとなることを目指して、第5回目を迎えた今回は、全米を中心とした世界最大級のマンガ・アニメファンサイト:MyAnimeList(https://myanimelist.net/)と電通の協力により開催されている。今回は北米を中心に250件を超える応募があった。

コンテスト方法は、事前に特設Webページにて公開された課題マンガ3作品から選んで応募された英語の翻訳を、4名の審査員・Debora Aoki(マンガジャーナリスト)、Matt Alt(マンガ翻訳者/株式会社アルトジャパン)、William Flanagan(マンガ翻訳者/編集者)、木村智子(マンガ翻訳者/フェロー・アカデミー講師)が、一次審査を経た優秀な9作品の中から、各課題作品の一番優秀な翻訳を作品優秀賞として3作品決定し、その中から最も優秀な翻訳に大賞を授与する。また今回から若い後継者育成のために学生応募者から選出する学生賞も設けられた。

開会の挨拶 デジタルコミック協議会 峰岸延也理事長

「日本の文化的財産であるマンガを世界に広げるためには翻訳家の皆さんの活躍は必然です。この会がその方々の活躍のきっかけになるコンテストであれば有りがたく存じます。日本のマンガは世界に広がる状況にあり更に広がることを願っております。」

課題作品と受賞結果は以下の通り。

●作品優秀賞 FirstPrize、学生賞 Student Award(W受賞)

対象作品『ずっと独身でいるつもり?』(おかざき真理作画、雨宮まみ原案、祥伝社)

受賞者:Emma Schumacker(US)ビデオレターコメント
「このコンテストを知った時、入賞を目指した訳ではなく、良い経験になるという興味での応募でしたが、受賞して本当に驚きました。翻訳家のキャリアとして素晴らしい学びの場となりました。他にはない経験を与えて下さり有り難うございます。」

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Debora Aoki審査員コメント
「このマンガは20代〜30代の女性を対象としていて、ナレーションと会話の翻訳は間違いやすいのですが、Emmaさんはこのストーリーを読みやすく楽しめるように翻訳しました。」

作者:おかざき真理 ビデオコメント
「私の作品を選んで下さり有り難うございます。日本の文化を紹介するために今後も続けて下さい。」

●作品優秀賞 FirstPrize

対象作品『ジャンプの正しい作り方!』(サクライタケシ作、集英社)

受賞者:Emily Taylor(US)ビデオレター
「今は翻訳の修士の資格を取っています。この夏は一番忙しかったと思います。毎日授業と翻訳の宿題をして、少し休んでから夜遅くまで数コマずつ翻訳する毎日は充実したひと時でした。私はマンガが大好きで、日英の翻訳家になりたいと思っています。この賞を頂き名誉なことだと思っています。アリガトウゴザイマス!」

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William Flanagan審査員コメント
「翻訳で難しいのはユーモアだと思います。もう一つ必要なのはよく調査することです。Emilyさんはユーモアを非常に上手く表現し、様々なキャラクターを表現でき、読んで楽しかったと思います。」

作者:サクライタケシ コメント
「Emilyさんおめでとうございます。おにぎり屋の素人(注)の描いた、日本人でも読むのが難しいと思うようなグジャグジャのマンガを翻訳して、ユーモアもちゃんと表現していただいて有り難いです。これからもマンガと共におにぎりも世界に羽ばたいていったらと思います。」
(注 サクライタケシ氏は本作第1話で編集部からルポマンガの依頼を受ける”元・漫画家志望 現・おにぎり屋”として登場する)

●大賞グランプリ GrandPrize

対象作品『春はあけぼの月もなう空もなお』(サメマチオ作、宙出版)

受賞者:Eleanor Summers(UK)は来日し、賞状授与に続いて本人のコメントがあった。「ここに来られて本当に嬉しく、大変光栄です。このコンテストに参加できて嬉しく、マンガ翻訳へのチャレンジを楽しみました。審査員の皆様、主催者、関係者の皆様に感謝申し上げます。」

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作者:サメマチオ コメント
「受賞おめでとうございます。この作品は古典原文の味わいを活かす、全く新しい『枕草子』への挑戦でした。今と昔の二つの日本語の混在するこの作品は、翻訳のみならず日本文学への知識と理解、より多くのチャレンジ精神を必要としたことでしょう。これを課題として下さったその勇気に嬉しく思っています。Eleanorさんはこれを機に翻訳家への道を歩まれると思います。Eleanorさんにより多くのマンガ作品が羽ばたいてゆくスタートが私の作品であることは喜ばしく楽しみです。心より今後のご活躍を期待して、以上をお祝いとさせて頂きます。」

Debora Aoki審査員コメント
「枕草子の原文を知らなくても非常に楽しませて頂きました。もう一つは探偵の技術も上手く説明できていました。」

Matt Alt審査員コメント
「この作品はとても綺麗で個人的にも好きな作品ですが、その基礎となる『枕草子』は海外では知られていないのも事実です。そのような作品を翻訳するチャレンジ心をとても応援しています。本当にお手柄です。おめでとうございます。」

William Flanagan審査員コメント
「翻訳者が大切にしないといけない色々な側面がありますが、この作品ではムードです。非常にゆっくりとして散文的な物です。そこを完璧に表現していました。」

木村智子審査員コメント
「この作品は話やキャラクターの感情の起伏が少ないので翻訳は難しかったと思います。作品の静かな雰囲気を英語でも再現できていたと思います。これからは今持っている良さを伸ばしながら、一つ一つの台詞の完成度を上げることです。基本的なことですが、訳し洩れを無くすなどの確認を心がけながら、翻訳のスピードを磨いて下さい。」

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左からWilliam Flanagan、Matt Alt

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左からDebora Aoki、木村智子

続いて応募の翻訳全体への講評として、Matt Alt審査員から「読むのにナチュラルな会話の流れが大切で」、直訳ではなく「時にはローカライズが必要」とし、例として言葉がコマで分割される場合の分け方はよくある問題であること、また課題作の台詞から”たまらない”や”やばい”をどう解釈して意味を伝えるか、時には日本語に書かれていない事も加える必要があること。そのためには編集者や作者ら責任のある人に確認を取ることが大事である、と解説した。

次に翻訳学校の講師もされている木村智子審査員からは、注意点として「台詞の仕上がり不足、台詞の読み込み不足による誤訳、用語の調査不足による誤訳」の例の解説があった。そのためには「英英辞書で意味を確認する、ナレーションなのか台詞なのかの勘違いに注意、単語によっては文字だけでなく画像検索で判る場合もある」などの回避方法を示し、「台詞の英訳はキャラクターが英語で話しているレベルまで仕上げ、作品を読み込んで解釈違いを無くし、日常生活のアイテム等はきちんと調査すること」とまとめた。

授賞式の最後に文化庁文化部芸術文化課長・木村直樹氏より挨拶の後、休憩を挟んで後半のシンポジウムでは「マンガの未来〜海外でもっと”マンガ”を読んでもらうために〜」と題して、まず次の3社の事業報告があった。

●集英社「海外マンガ配信の現状と取り組み」集英社ライツ事業部 関谷博

「集英社作品の海外マンガ配信は、基本的に印刷版のマンガ単行本を許諾しているライセンシー(海外出版社)に、デジタル版のマンガ単行本を許諾、配信している。『サイマル配信+単行本配信(雑誌掲載)』もしくはサイマル配信の無い地域は『単行本配信』が基本。マンガ・アニメ双方のライセンシーが協力し、商品化等の際のクロスプロモーション、イベントでの合同パネルなどを積極的に行い、作品全体で盛り上げるようにしている。キャラ名等の表記は極力マンガ・アニメで統一する。北米・英語圏、中国、韓国、欧州、台湾、タイに配信している。ライセンス作品の流通国・地域を広げるため、未出版の国・地域へは、海賊版、正規出版の並行輸入版も含めてニーズはあるので、正規流通版の提供に努力する。またアジア、中国、中東・イスラム圏で地域ごとの課題がある。」

●講談社「海外マンガ配信の現状と取り組み」講談社 森本達也

「1960年代から海外展開を進め、現在、ライセンス中心に世界40以上の国と地域でコンテンツを提供している。海外拠点の整備、拡充により現地出版、販売、合弁事業も積極的に推進。海外コミック事業はコミック(紙)で40以上の国と地域に展開し、デジタルコミックは英語版で約180の国と地域に配信している。エージェントを使わず、自社の国際ライツ事業部が現地と直接取引して営業、契約、監修、共同マーケティング・プロモーション全てをするのが特徴。海外デジタルコミックは8言語、7000点以上を配信中。海外配信は成長が続いている。重点取組は点数・品揃えの拡大、販売チャンネルの拡大、マーケティング・プロモーションの強化。ローカライズを自社で行い、英語圏ビジネス拡大のためサンフランシスコに新会社(Kodansha Advanced Media,LLC.)を設立している。事例として、Humble Bundleという課金システムが現地からの提案で成果が出ている。」

●株式会社メディアドゥ(http://www.mediado.jp/)溝口敦

「約十年前に電子書籍ビジネスに参入した。作品をいかに多くの人に届けるか、国内だけでなく海外へもいかに多く届けるかを事業活動とし、具体的には作者・出版社と電子書店・利用者の間の取り次ぎ(distribution)をしている。ITで効率を上げ、コンテンツのデーターベースに力を入れている。また顧客側のサイト構築管理も行っている。データーベースは配信が毎月60億ダウンロード可能なシステムを構築している。2016年に米国サンディエゴに子会社を設立した。マンガ流通ではDAU(読者数)×ARPU(購入額)×コンテンツ開拓(コンテンツ数)が全てで海外も基本は国内と同じと考える。DAUを増やすのに、試し読みから徐々に購入するよう、また電子図書館に配信したりして読者の母数を増やすようにしている。」

続いて、シンポジウムとしてパネラーに茨木政彦(株式会社集英社 取締役)、古川公平(株式会社講談社 取締役)、溝口敦(株式会社メディアドゥ 取締役)、モデレーターに島野浩二(株式会社双葉社 取締役)を迎え、この4名での意見交換があった。

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左から島野浩二、茨木政彦、古川公平、溝口敦

●「デジタルコミックをどうやったら広がるかについて」

茨木政彦「集英社としては先ほど語って頂いた通り地道にやっていきます。一番の課題は作品を出し切ってしまって、次の作品をどうするか悩んでいる。日本で良い作品が生まれないと世界に売れないだろう。今あるタイトルをニッチなマンガオタク以外に認知してもらい売るには、プロモーションにお金を掛けるしかないが、IT企業のような大規模にはできない。日本ではアニメの影響が大きいので、暴論かもしれないが、海外の放送局を買って日本のアニメをガンガン流すぐらいのことをやるべき。」

島野浩二「日本の出版規模全体で紙だけで1兆5千億円程度。様々な事業も含めてその倍の3兆円ぐらいで、自動車会社1社の売り上げと同じぐらい。日本の出版社は世界から見れば中小企業だ。だから各社が集まり他の会社にも協力頂いて海外へ出ようと考えている。流通でもデジタルで各社共同にできないかと考えている。」

古川公平「デジタルを出すべきと考えたのは海賊版対策。2年前の調査では北米で海賊版が3兆円ぐらいの被害がある。読みたい人にどうやって届けるかから考え、海賊版を読む人にマーケティングすると本物が読めない(海外版が遅い、出ない)からと判る。そこでサイマルでまず届ける。そして翻訳して出す量を増やすのには自社で環境を整えるべきと10年前にK.U.P(Kodansha USA Publishing,LLC.)を設立した。講談社はアメリカ進出50周年を迎える歴史がある。ライセンス出版を待つのでなく、より増やしてゆくのにデジタルで国別にマーケティングして自分たちで判断してスピーディーに出していく。電子の良さを利用して、紙に持ってゆく方針です。

数年前にパリのジャパン・エキスポに行った時、ほとんどが海賊版で抗議をしたら、正規版が出ていないからだと言われた。やはり本物を出すのには流通は日本が一緒にやる方が良いし資金も増えると考え、角川、小学館、集英社とまとまり、アニメイトに業務を委託して5社で日本と同じ物を売ろうと、Japan Manga Aliance(http://www.japanmanga.co.jp/)を設立し、まずはタイに出店した。2日間で2万人来てくれ、現地では物凄く高額なのに買ってくれ、現地の海賊版が潰れている。ブランド品のように世界にアンテナショップを出店していきたい。」

溝口敦「最近、海外のコミコンやブックフェアに足を運ぶが、残念ながら日本のマンガはまだコアな人だけと感じた。日本ではマンガは文化と言えるぐらいで、コマの運びは日本語の文法より複雑で、日本のマンガが面白いと海外の人に知ってもらうためにお金を掛ける必要がある。我々IT事業者はコンテンツをいかに多く流通させるのかが仕事の工夫のしどころで、国内の電子書籍の例を海外に輸出できないかとやっている。」

●質問「マーケティングにお金が必要との事でしたが、日本の文化を知らない、コミックについて知らない人達に対して、どのようにマーケティングを行うのでしょうか?」

古川「出版社は読者の事は考えるが、商売としては取り次ぎ、出版社が相手のBtoBなので、読者アンケートなどの顧客データをちゃんと使っていなかった。デジタルとなれば、そのためのシステム投資や人が必要となる。」

島野「正直なところ具体的な行動の前の調査の段階だと思う。そのために海外に精通している方のご協力が必要です。」