ゲーム機の進化はグラフィックやサウンドだけでなく、ストーリー体験においても多様性をもたらした。『グランド・セフト・オートV』や『Fallout3』などのオープンワールド型ゲームはその最右翼だ。もっとも、オープンワールド型ゲームは技術的にもコスト的にも敷居が高く、もはや国産ゲームでは太刀打ちできなくなっている。そのため海外のオープンワールド型ゲームが至高で、国産の一本道ストーリー型ゲームは時代遅れ……。ともすれば、そんな論調も見られるようになってきた。

しかし本書『おもしろいゲームシナリオの作り方』によると、そう話は単純ではないようだ。アメリカ人ゲーマーを対象とした調査によると、インタラクティブ一本道型ストーリー(いくつかの分岐は存在するが、基本的には一本道のストーリー。『ファイナルファンタジー』シリーズなど)がもっとも人気が高いという結果が紹介されているからだ。母集団のかたよりなどを考慮する必要はあるが、一本道のストーリーは海外でも一定のニーズがある、という指摘は心に留める必要があるだろう。

前書きにもあるとおり、本書は「ゲームシナリオの書き方」ではなく「作り方」についての解説書だ(原題は「Interactive Storytelling for Video Game」)。多くのゲームシナリオ指南書は、RPGやビジュアルノベルといった、一定のジャンルにおけるライティングテクニックの説明に重きを置いている。しかし本書では、プレイヤーに提供したいストーリー体験を構築するための、ゲームシステムとシナリオの関係性構築がテーマとなっており、この点で唯一無二の内容になっている。

本書では大きくゲームのストーリーを「完全一本道型ストーリー」「インタラクティブ一本道型ストーリー」「マルチエンディング型ストーリー」「マルチシナリオ型ストーリー」「オープンワールド型ストーリー」「完全プレイヤー主導型ストーリー」に分類し、それぞれの長所と短所や、実際にシナリオを作る上でのコツなどが整理されている。ヒーローズジャーニーやステレオタイプの活用など、ストーリー作りに関する基本も簡潔に整理されており、初心者からベテランまで参考になるだろう。

また教科書的で無味乾燥になりがちな解説の端々で、『ドンキーコング』から『ワールドオブウォークラフト』まで、41本のゲームがケーススタディーとして上げられており、読み物としても楽しめる作りになっている。ポイントはこのうち28本が国産ゲームになっている点だ(選択肢が存在せず、日本でも議論を巻き起こした『ひぐらしのなく頃に』も取り上げられており、アメリカ人の視点で論評されている)。RPGやAVGといった、国産のストーリーゲームが海外に与えた影響の大きさが感じられる。

これまで繰り返し議論が行われてきた「プレイヤーが主導するストーリー(オープンワールド型ストーリーなど)」と、「古典的なストーリー(一本道のストーリーなど)」の優劣について、二度にわたるユーザー調査の結果をもとに、考察を進めている点にも注目だ。結果は冒頭で示したとおりで、古典的なストーリーに軍配が上がった。中でも『ファイナルファンタジーVII』『クロノ・トリガー』『ゼノギアス』といった、1990年代のスクウェア黄金時代に制作されたタイトルが高く評価されている点が興味深い。

もっとも家庭用ゲーム機のヒット作は、開発費用に500億円を投じたとされる一人称視点シューティング『ディスティニー』をはじめ、マルチプレイゲームが中心だ。そのためストーリーは総合的なゲーム体験の一つにすぎない。一方でインディ(独立系)ゲームでは『Bastion』『Papers, Please』など、古典的なストーリー体験が楽しめるゲームが登場し、ゲーマーの評価を集めている。海外市場で、大作ゲームに飽き足らないマニア層の潜在な市場が広がっている――そんな風にも読み解けるのではないだろうか。

本書の著者は若手インディゲーム開発者のジョサイア・レヴォウィッツ氏と、ベテランゲーム開発者のクリス・クルーク氏という二人のアメリカ人だ。つまり本書はアメリカ人ゲーム開発者が、日本のストーリーゲームから学んだ内容を、自分たちの文脈で整理し直した解説書となっている。なにより、こうした知見が幅広く共有された意義は大きい。日本の読者が学ぶ点も大きいはずだ。

『おもしろいゲームシナリオの作り方――41の人気ゲームに学ぶ企画構成テクニック』
著:Josiah Lebowitz、Chris Klug、監訳:塩川洋介、訳:佐藤理絵子、出版社:オライリー・ジャパン
出版社サイト
http://www.oreilly.co.jp/books/9784873116822/