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 メディアアートについての国際的なカンファレンス「メディアアートヒストリー」の第6回大会が、2015年11月5日から8日にかけて、カナダのモントリオールで開催された。「Re-Create 2015」と題された今大会は、「メディアアートとサイエンスとテクノロジーの諸歴史におけるリサーチ−クリエイションの諸理論と諸方法と諸実践」を基調テーマとして、5日間にわたる講演やパネル発表や口頭発表やワークショップや作品発表等で、研究と創造を横断する多領域からの参加者たちが議論を交わした。

 初日には若手研究者たちの口頭発表が行われた。そのうち、過去のテクノロジーやメディアアートを復刻するプロジェクトについて報告したモルゲン・ストリコット[Morgane Stricot]氏の発表と、何らかの類似性に着目することで間時系列的・超歴史的にアートを教育・研究する方法を提案したアリソン・リー[Allison Leigh]氏の発表が、優秀発表に選ばれた。

 2日目の午前中は、初日の発表の多岐にわたる論点について参加者たちが自由に議論する場が設けられ、午後には、本カンファレンス最初の口頭発表セッションとして、基調テーマでもある「リサーチ−クリエイション」ないし研究と創造の領域横断的・超領域的な取り組みについて、カナダ、イギリス、アメリカ合衆国を中心とした各地域の比較や、その評価と展望についての報告と議論が行われた。夕方には、作品展示のオープニングと、カンファレンスのオープニング・レセプションを挟み、バイオアートについてのパネル発表、続いてジョアン・ジョナス[Joan Jonas]氏による基調講演が行われた。

 3日目には、6つの口頭発表/パネルのセッションが、それぞれ、メディアアートの創造上・研究上の方法論や、国際的なスタジオラボの諸歴史、脱人類中心主義の諸理論、自作文化、ラテンアメリカにおける先駆的諸実験、そしてアーカイヴをテーマに行われたほか、オープンソース環境のワークショップ、Media-N Journalのリサーチ−クリエイション特集号とクリス・サルター[Chris Salter]氏の新著の刊行記念トーク、それからクリスティアン・ヴァン・アッシュ[Christine van Assche]氏による基調講演も行われた。

 4日目には、メディア考古学と人文学実験室の創造的知識と実践ベースの理論、メディアアートのキュレーティング、諸感覚の理論、領域横断的な研究と創造の方法論、といったテーマでの6つのセッションに加えて、集合的創造のワークショップ、ユッシ・パリッカ[Jussi Parikka]氏とヨアシャ・クルイサ[Joasia Krysa]氏の新著の刊行記念トーク、そしてスカウェナティ[SKAWENNATI]氏による基調講演が行われた。また、メディアアートヒストリーの功労者として、バーバラ・マリア・スタフォード[Barbara Maria Stafford]氏が表彰された。

 最終日には、午前中に3つのセッションが、それぞれ、メディアアートの国際的な地域研究、回路についての領域横断的アプローチ、そしてメディアアートとサイエンスとテクノロジーの超領域的なコラボレーションの評価と展望をテーマに開催された後、今大会全体を振り返るセッションと次回大会の予告で、5日間のカンファレンスが締めくくられた。次回は2017年にパリで開催予定。

 今大会のプログラム詳細や発表資料についてはメディアアートヒストリーの公式ウェブサイトを参照されたい(http://www.mediaarthistory.org/maharchive)。また、今大会を主催したHexagramも、当日の映像記録を公開している。

 さらに、今大会の主催者の一人であるクリス・サルター氏が、このレポート記事のために特別に原稿を寄せてくださった。「Re-Create 2015」のテーマや背景について、そして会場となったモントリオールにおけるメディアアートとリサーチ−クリエイションの状況について、それから研究者でもありメディアアーティストでもあるサルターさんご自身のお仕事について、たいへん丁寧に詳細なご紹介をいただいた。カナダでどのような取り組みが行われているか、最新の動向を知ることのできる貴重な文章である。執筆を快諾してくださったサルターさんに心より御礼申し上げ、拙訳で恐縮だがここに掲載させていただく。

リサーチ−クリエイション—-アートと人文学と社会科学と自然科学を横断する研究と実践の新しい諸形式

クリス・サルター

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 「Re-Createが探究するのは、学問的・文化的な環境にとってますますクリティカルなものとなっている、メディアアートとデザインとサイエンスとテクノロジーにおける実践と理論と方法のもつれです。それと同時に、技術的−文化的なもろもろの道具や概念や方法を巻き込んだ芸術的諸領域の包括は、助成機関や政治団体によってますます国際的に支援されるようになっています。こうしたことは実践主導の研究パラダイムの創発を促進してきましたが、そこにはそうしたパラダイムにつきものの方法や評価や機会の問題もまたともなうものです。Re-Create 2015は、メディアアートとサイエンスとテクノロジーの絡み合った歴史に関連する一連の広範かつ多様な国際的な諸場所・諸領域・諸文脈における、実践主導の研究の歴史的なもつれを広く問うことを目指しています。」

 このような文章で導入されたRe-Create 2015は、2015年11月に開催された国際カンファレンスで、これを主催したHexagramは、メディアアートとデザインとテクノロジーの、研究ベースの創作実践を専門とする大規模な国際的研究ネットワークのひとつで、カナダはモントリオールにある2つの大学、ケベック大学モントリオール校(UQAM)とコンコルディア大学を拠点としています。Re-Create 2015は、メディアアートとサイエンスとテクノロジーの諸歴史についての国際カンファレンスの第6回目の大会であり、カナダのBanff Centre for the Artsで2005年に開始されて以来、これまでベルリン(2007年)、メルボルン(2009年)、リバプール(2011年)、リガ(2013年)と続いてきたこのカンファレンス・シリーズの10周年にもあたります。

 2015年のカンファレンスは、11月4日から8日にかけてモントリオールで開催され、200人を上回る参加者たちが、カナダやアメリカ合衆国、ドイツ、ブラジル、日本、インド、スイス、フランス、メキシコ、イギリス、オーストラリア、オランダ、オーストリアを含む、22以上の国から集まり、口頭発表にパネル発表、それから地域的・国際的に評価されているアーティストやキュレーターたち(ヴィデオ/メディアパフォーマンスのパイオニアであるジョアン・ジョナス[Joan Jonas]や、ポンピドゥー・センターの前メディアアート・キュレーターであるクリスティン・ヴァン・アッシュ[Christine van Assche]ら)による基調講演や、新刊図書の出版記念会、会議、そしてモントリオールの最高の文化施設たちと共催した基調講演や関連活動からなる、濃密な4日間を過ごしました。国際的なさまざまなスタジオラボの歴史や、メディアアートにおける新しい理論と方法の流行、アートとデザインとキュレーションの新しい領域横断のモデル、それからデジタルヒューマニティーズとメディアアートの新しい結びつきなど、広範な論題をめぐって、人類学や社会学から、美術史や映画研究、アートとデザイン、エンジニアリングとコンピュータサイエンス、そしてサイエンススタディーズにまでいたるさまざまな領域から、稀に見る雑多な学者や実践家や若手研究者たちがモントリオールで一堂に会し、研究と実践がこの技術圏において知識と存在の新しい諸形式を産み出す仕方について議論を交わしたのです。

 メディアとアートとサイエンスとテクノロジーにおける研究と実践の絡み合いについてのこうした関心は、カナダとケベック州における「リサーチ−クリエイション」—-解釈的諸領域(人文学と社会科学)を、創造的な素材とパフォーマティヴな実践の中であるいはそれらを通じて新しい知識を創造することを巻き込んだ創造的諸領域(アートとデザイン)に結びつけるという、発展中のひとつの研究動向—-に対する長年にわたる関心と支援に由来しています。2001年以来、Hexagramでのリサーチ−クリエイションは、ケベックそしてカナダにおいて、技術文化の枠組のなかでアートとデザインとパフォーマンスの新しい諸形式を創発させることを可能にし持続させるために、とりわけ重要な役割を果たしてきました。そういうわけで、Re-Create 2015のテーマは、Hexagramが長年にわたって国際的な学者や実践家たちや地域的な研究会議の政策立案者たちを巻き込んで進めてきた方法論的な議論とつながっているものなのです。

 メディアアートとデザインとデジタルカルチャーとテクノロジーの研究者たちの、北米における最大規模の戦略的集合体として、そして国際的にも最大規模のもののひとつとして、Re-Create 2015を主催したHexagramは、ケベック大学モントリオール校とコンコルディア大学にある2つの主要な拠点で働く100名以上のメンバーに加えて、モントリオール大学、ケベック大学高等工科大学、ケベック大学シクチミ校、マギル大学の研究者たちが参加し、そのネットワークはケベックやカナダや世界(ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アメリカ合衆国、アジア、オーストリア)の産業やアートや文化的な機関とコラボレートしてもいます。

 この2つの大学において研究者や大学院生たちが得ることのできる研究と技術的インフラの質と多様性が、Hexagramをユニークなものにしています。Hexagramには2つの中心的な目的があります。(1)新興領域のひとつとしてのリサーチ−クリエイションを推進する、理論的・方法論的な概念/ツール/プロセスと実践を展開するために、Hexagramの研究者間のコラボレーションを推進すること、(2)このリサーチ−クリエイションについての専門的成果を、国際的なステージの上で鍛えあげ交換し広めること。

 Hexagramとその2つの主要な支部ないし「アンテナ」であるUQAMとコンコルディア大学(コンコルディア自体がちょうどデジタルなアートと文化とテクノロジーのための新しい研究所を設立しました)におけるリサーチ−クリエイションの研究活動と芸術実践の多様性がどういうものか、その感触をつかんでいただくには、CAA(the College Art Association)のニューメディア部門が刊行している季刊の査読雑誌『Media-N』が、ケベックにおけるリサーチ−クリエイションを特集した号をご覧いただくとよいかもしれません。「リサーチ−クリエイション:探究」と題され、Hexagramの4人の研究者がゲスト編集者として参加したこの特集号は、「リサーチ−クリエイション」についての方法論的・社会的・物質的・歴史的な考慮を織りあわせてゆくためのアイデアや方途について考察した14の論文を収録しており、それらは創造的な素材とパフォーマティヴな実践の中でのあるいはそれらを通じた知識の編成についての、これまでのヴィジョンや最新の発見やこれからの見通しの略図を描いています。

 リサーチ−クリエイションのこのモデルは、2013年から2016年にかけてのHexagram共同ディレクターとしての、そしてアーティストかつ研究者としてのわたし自身の仕事を、大学という文脈の内外で導いているものでもあります(http://chrissalter.com)。演劇の演出家/劇評家、コンピュータ音楽、経済学、そして哲学の訓練を経た、わたしのアート作品は、触覚や視覚や聴覚やその他の感覚的現象を混ぜ合わせ、人間の知覚に焦点をあてて挑戦する、大規模なインスタレーションです。諸感覚とアートとデザインと新しいテクノロジーたちの境界線を探索しながら、エンジニアやプログラマーや人類学者や歴史家や哲学者やアーティストやデザイナーの国際的なコラボレーターたちからなる流浪のチームとともにわたしがつくりあげる作品たちは、演劇や建築や視覚芸術やコンピュータ音楽や知覚心理学や文化理論やエンジニアリングに影響を受けた没入的で物理的実験的なものです。

 たとえば、『Ilinx』というわたしの最近のプロジェクトは、国際的に巡回していて、2015年の9月にはTodaysArt.jpフェスティバルの一部として東京でも展示させていただいたのですが、これは観客たちの身体とパフォーマンス空間のあいだで感じられた諸感覚の親密なもつれに関わるもので、そこでは、変動する知覚の閾上で作動する音や触覚的振動をコンポーズしたシーケンスによって、形状やサイズや次元の感覚が絶えず変化させられることになります。『Ilinx』では、イタリアのオーディオ−ヴィジュアル・アーティストTezに、装着具のデザイナーのヴァレリー・ラモンターニュ[Valerie Lamontagne]、それからモントリオールのマギル大学から音楽テクノロジーの研究者たちのチームからなるコラボレーションで開発された、全身に触覚的な刺激を与える無線制御の衣装を、数名の観客が着用し、さらに極端に視界を制限され、入念にコンポーズされた光と音の合図のシーケンスによって絶えず変化する広い空間のなかを彷徨います。

 近頃は、新しい諸テクノロジー、人類学、テクノロジーの文化研究、それから最新テクノロジーの開発を巻き込んだ、アートとデザインの実践の交差点を探究するいくつかのプロジェクトに取り組んでいます。たとえば、オランダを拠点とするBaltan Labs、Holst Centre、Philips Researchとのコラボレーション『Qualified Self』は、最近の数値化されたデータとしての感覚的身体と自己への執着や、そうした数値化が新しい「流動的」なネオリベラルな自我の形式を養成する仕方に照準した、技術的・芸術的な共同探究です。

 新しいテクノロジーたちがいかにして感覚や知覚や経験の新しい形式を組織するかというこれらの課題は、2015年にMIT Pressから出版されたわたしの最近の著書『エイリアン・エージェンシー:製作中のアートとの実験的な遭遇[Alien Agency: Experimental Encounters with Art in the Making]』の主題でもあります。これは《製作中のアート》についての3つの物語です。いずれもサイエンスとテクノロジーに深く巻き込まれるとともにそれらによって可能になったプロジェクトです。わたしはこれらの3つの作品たちがどのようにアーティストたちの意図を超えて行動し行為して、未知の驚くべきエイリアンになるのかを調べました。また、広範な民俗誌的観察とわたし自身のアーティストとしての研究に基づいて、創作の経験的で情動的な諸要素を通じ、実践に焦点をあてており、その中心的な問いは、主観と客観や、人間と非人間や、精神と身体や、世界を知ることと経験すること、といったかつての分裂を回避するような、新しい種類の芸術的経験の諸条件を、リサーチャー−クリエイターはどのように組織するのかということです。演劇や舞踏や建築や視覚・音響・メディアアートの歴史のなかで、アーティストたちがいかにつねにテクノロジーともつれあってきたかを探究した、わたしの最初の著書『もつれ:テクノロジーとパフォーマンスの変形[Entangled: Technology and the Transformation of Performance]』の続編として、『エイリアン・エージェンシー』は基本的に、新しい技法とテクノロジーによる芸術的仕事というものは、世界がしばしばわたしたちの理解をすり抜けるということの認識の連続であり、芸術的な遭遇というものは究極的には、そういう経験を表象することだけではなく、それを毎回新しく作り出すことなのだ、ということを例証しているのです。

2016年1月

フーコックにて

クリス・サルター