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イベントレポート

特撮文化の継承を訴える背景
 2013年8月4日、福島県須賀川市にある福島空港公園「21世紀建設館」にて、特撮文化の継承を訴えるトークセッション「特撮塾@ふくしま -特撮を語ろう、未来に向けて―」が開催された。(イベントの概要はこちら
 福島県須賀川市は”特撮の神様”と呼ばれる円谷英二の出身地であり、円谷の生み出した国民的ヒーローであるウルトラマンの故郷「M78星雲光の国」と姉妹都市提携するなど、かねてよりウルトラマン、特撮による街づくりに取り組んできたことで知られる。
 そんな特撮の「聖地」に、特撮分野の第一人者が集い、特撮の置かれた現状や、未来に向けた特撮文化の継承について議論し、参加者とともに考えることが、今回のトークセッションの趣旨である。
 スピーカーは、庵野秀明氏(監督・プロデューサー)、尾上克郎氏(株式会社特撮研究所 専務取締役/特撮監督)、原口智生氏(監督、特撮造型修復師)、樋口真嗣氏(映画監督)、三池敏夫氏(株式会社特撮研究所/特技監督)の5人。セッション後半からはゲストスピーカーとして井上伸一郎氏(株式会社KADOKAWA 代表取締役専務)も加わり、約200人の観客を前に、さまざまな映像や写真の紹介をまじえながら、本音のトークが繰り広げられた。

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関西など遠方からの参加者も多く、会場は盛況

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熱のこもった議論に真剣に耳を傾ける参加者


 セッション前半では、尾上氏がモデレーターとなって、特撮の現状を解きほぐす議論が展開された。今回のスピーカーは、「平成24年度メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」(以下「メディア芸術コンソーシアム構築事業」)における調査研究「日本特撮に関する調査」にも主体的に関わっている。
 彼らが、特撮文化・技術の継承やミニチュアの保存を考えるようになった背景には、CG技術の台頭により特撮技術の活躍の場が失われたことに加え、「芸術的、文化的に見ても価値が高く貴重だと思われるミニチュアがどんどん捨てられ、なくなっている」(庵野氏)という危機感も大きかった。
 原口氏からは、「そもそもミニチュアセットとか、ゴジラやウルトラマンのぬいぐるみは、映像作品を作るための部品でしかなかった。だから、作品が完成してしまえば、部品の役割を終えたのでもう必要ないというのが、昔の撮影所の映画人の当たり前の感覚だったと思う」と、ミニチュアや特撮の小道具が廃棄されてきた経緯が語られた。
しかも「我々世代にとって自分たちにとっては当たり前のように存在していたミニチュアの特撮を知らない世代が映画界にもどんどん増えている。一度失われた技術は簡単には取り戻せない」(尾上氏)。そんな議論を重ねて実現したのが、2012年に東京都現代美術館で開催され、約29万人の来場者を記録した「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技(以下「特撮博物館」)」であり、先述した「日本特撮に関する調査」だった。
 この調査にあたり、尾上氏は「特撮は今まで定義すらされてこなかった。そのために、ミニチュアなどの遺産を保存するにも行き場がない」ことに気づき、あらためて特撮の定義や文化としての特撮を問い直すことから議論を始めたという。

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左から尾上氏、原口氏、井上氏

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庵野氏、三池氏、樋口氏


どのようにミニチュアを保存すべきか
 こうした現状認識をもとに、イベント後半では、特撮技術の継承やミニチュアなどの保存方法について、具体的な意見が交わされた。
「企業にとっても保管にはコストがかかるため、採算度外視でミニチュアを保存することは難しい」(樋口氏)という現実がある。現状、保存状態がいいものは、個人コレクションに多いが、個人の保存にも限界があり、さまざまな事情から散逸や廃棄の危険性が常にある。
井上氏からは「現状保管しているミニチュアについてのチェック体制を整備すると同時に、企業だけでなく国や行政などと協力し、保管する場所、組織をつくるような方向に働きかけていきたい」という提言があった。庵野氏からも「国か、最低限自治体が主体となって保存施設を作ることに取り組んでもらいたい。さらに理想を言えば、ミニチュアを簡単に捨てることができないような法律もできれば」という要望が出た。
その際には、「何を保管していくかというルールの整備も必要。いままではルールがなかったために、特撮文化を証言する貴重なミニチュアがどんどん捨てられてしまった」(樋口氏)という観点も重要だろう。
 セッションのなかでは、傷んだミニチュアを原口氏が修復する様子も写真とともに紹介された。その職人的な技術に驚くとともに、技術継承の難しさも痛感させられた。「ミニチュアは年数がたてば傷む。金属は酸化するし、キャラクターの着ぐるみ関係はどうしてもゴム素材が多いので、経年劣化が避けられない。だから保存状態を診断し、必要に応じて修復できるような体制も必要ではないか」(三池氏)という指摘も、今後の特撮文化の保存を考えるうえで欠かせない視点だろう。

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原口氏の修復された模型を手にする庵野氏、三池氏


特撮再注目の機運を消さないために
 「特撮博物館」の成功や「日本特撮に関する調査」の実施によって、いま特撮文化再注目の機運は生まれつつある。しかし、それを一過性の流行に終わらせないためには、「これからでもまだ遅くないので、特撮文化の価値付けをする作業が必要ではないか」と井上氏は指摘。樋口氏も「今の若い人たちは特撮映画を見たことがない人もいるかもしれないし、わざわざこんなものを作って……と思うかもしれない。でも、CGのような便利なツールがない時代に、どうやって本物らしく表現して、人の心を動かそうとしたのか。特撮は、そういう先人の知恵の結晶であるという意味で残す価値があるということを伝えていかなければならない」と力を込めて訴えた。
 質疑応答のなかでは、技術面での継承についての質問が投げかけられた。それに対して、原口氏は「特撮技術の継承は文章や映像で記録をしても伝わりづらい。本来は、作品の制作を通じて、技術を受け継ぐ人材を育てるような環境をつくらないと難しいと思う」と、職人的な技術ゆえの継承の難しさを語った。
 セッションを通じて印象的だったのは、「なんとかしてください。なんとかしてほしいです。お願いします」(庵野氏)、「特撮を愛する人たちみんなに声を上げていただいて、ミニチュア保存の施設を作ることが僕らの希望です」(尾上氏)と、繰り返し来場者に協力を求めるスピーカーたちの切実な声だ。いままさに、自分たちが慣れ親しんできた技術やミニチュア、小道具が急速に失われつつある。とにかく、できることから始めなければならない。特撮技術・文化の保存・継承を特撮の「聖地」で訴えるその声は、きっと来場した一人ひとりにも響いていたに違いない。