「イベント群」的構成――複数のステージで何かが展開されている

トランスメディアーレは、アルスエレクトロニカと並び称される、ヨーロッパを代表するメディアアートのフェスティバルである。かつてはアルスエレクトロニカと同様、大規模な展示が行われ、コンペティションも実施されていたが、クリストファー・ガンシング氏を当時35歳という若さでディレクターに迎えた2012年より方向転換し、スタティックな展覧会よりもイベントやカンファレンス、パフォーマンスなど、一回性や双方向性を強調したプログラムとなっている。第28回となる2014年も、「アートフェスティバル」という言葉から想像されるようなスペクタクルな会場風景の代わりに、複数設けられたステージでひっきりなしに何かが行われているという、むしろ「イベント群」と呼んだ方がふさわしい構成である。

プレイベントとして行われた「アート・ハック・デイ」(以下AHD)は、世界中から100名近いアーティストやプログラマーが集い、材料調達から作品制作をたったの48時間で行うというものだった。AHDで制作された作品はトランスメディアーレ期間中、会場である世界文化の家に展示され、これが、会場内に散らばるように設置された《CRITICAL INFRASTRUCTURE》(Jamie Allen & David Gauthier)と並んで、メイン展示の一つになった。その他、連携イベントとして音楽をメインにしたフェスティバル「CTM(クラブ・トランスメディアーレ)」 が1週間にわたって開催され、市内各所で様々なコンサートやパフォーマンスが行われた。

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様々なトークが行われたホワイエの様子。黄色い観測機械のような立体はメイン展示の一つ、《CRITICAL INFRASTRUCTURE》(Jamie Allen & David Gauthier)。

日本からも「文化庁海外メディア芸術祭等参加事業」として伊藤ガビン氏の企画により、エキソニモ、IDPW(アイパス)、毛利悠子氏、谷口暁彦氏がAHD及びアーティスト・トークとパフォーマンスに参加、松本弦人氏はAHDでこのイベントそのもののドキュメントをBCCSで制作した。そしてトランスメディアーレ最終日にはIDPW(アイパス)が中心となりイベント「インターネットヤミ市3」を開催した。そのほか、日本からはスプツニ子!が最終日の基調講演登壇者として招待されている。

メインテーマ:”Afterglow”

今年のテーマは、「残光」を意味する「アフターグロウ(Afterglow)」。ポスト・インターネット時代におけるメディアアートの可能性を探る投げかけだ。

近年、「ポスト・インターネットアート」は用語として欧米で一般化し、日本でもいくつかの展覧会等で、インターネットやニューメディアを再考する機会が訪れている。しかし何と言っても今年のテーマはエドワード・スノーデンが暴露したアメリカNSAによる諜報活動をめぐる一連のスキャンダルに強く呼応していた。フェスティバルのコンセプト「Into the afterglow」は、いったんはユートピアのように語られた高精細な音響映像、リアルタイムなコミュニケーション、無限のストレージが、この世界にすでに行き渡っていること、そしてそのようなネット社会に依存して生きる限り私たちが提供し続けるデータ(’Big Data’)が大衆監視の母体(’Big Brother’ of mass surveillance)となっていることについて言及している。このネットと監視社会のトピックについてブルース・スターリング氏(Bruce Sterling)、ローラ・ポワトラス氏(Laura Poitras)、トレバー・パグレン氏(Trevor Paglen)をはじめ数々の基調講演登壇者が触れ、そこにそれぞれが見いだしている可能性についてプレゼンテーションした。

“Welcome to your new NSA partner network”―いまここにある脅威について

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AHD出品作の一つ、Robert Bohnke, Johan Uhleによる《Honeypot》。コンピュータセキュリティ用語で囮手法を指すハニーポットを本物の蜜壷で表現。蜜壷は意図的に無防備な状態に置かれるわけだが、「携帯電話も無防備な状態だからハニーポットみたいね? 」と作家は言う。

展示やパフォーマンスなども直接/間接的にこのトピックに呼応していた。最も先鋭的だったのは、AHDで出品された、ジュリアン・オリバー氏&ダンニャ・バシリエフ氏 (Julian Oliver and Danja Vasiliev)の《PRISM》であろう。この作品は近くに来た来場者の携帯電話をハッキングし、ユーザーネーム、ホストネーム、IPアドレスなどの情報を壁に投影するほか、「NSAパートナーのネットワークへようこそ!」というSMSメッセージを携帯へ送るものだった。NSAがまさに行っているのと同じ手法のハッキングを体験してもらいたかったと作家が語るこの作品は、残念なことに(そしてまた、たいへん興味深いことに)、トランスメディアーレのテクニカル面を担当した契約業者により、来場者のプライバシーに配慮した形で展示二日目にして撤去されたのである。

ネットワークからの逸脱―”Internet Yami-ichi 3″

このようなインターネットとデジタル化が浸潤した社会を見渡すテーマの下、最終日に行われた「インターネットヤミ市3」は特別な意味を持つだろう。「So turn off, log-out, and drop in, on the actual world.(電源を切って、ログアウトして、本物の世界に立ち寄ろう。)」というこのイベントの呼びかけは、スノーデンが暴露した監視ネットワークからの逸脱を意味するからである。

「インターネット」をキーワードに様々な物品やサービスが販売されるこのフリーマーケット「インターネットヤミ市」は、過去2回東京で開催され、アーティストやクリエイター、ハッカー達の、趣向を凝らした出展物で注目を浴びてきた。

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入場制限まで行われた、大盛況の「インターネットヤミ市3」の様子。

今回のベルリンでの開催は、企画ディレクターである伊藤ガビン氏による「exodus from formal internet」(フォーマルなインターネットからの脱出)という企画の一環として実施された。スパムメールを手書きしたリアルスパムメールが売られていたり(ノガミカツキ、Carl Emil Carlsen)、ポルノグラフィのバイナリデータが額縁に入れられて売られていたり(谷口暁彦)、NSAデータが入っているというUSBメモリをスノーボールに入れたもの(Jens U. Jorgensen)、「純粋な」ノイズが録音されたCD(Hacker Luca)、指紋の鋳型(John Wild)、クレジットカードのPIN (Terrorbyte.org)、などなど、「Afterglow」の時代ならではのアイデアに溢れたさまざまな商品とサービスが売買された。興味深かったのは、企画者のIDPW(アイパス)が「ドイツや他のヨーロッパの国々からも出展者がありましたが、YouTubeやNSAなどテーマになる対象やシステムこそ違っても、みんなよくこのイベントの趣旨を分かっていて、意外なほど違和感を感じませんでした」と語ったように、ネット世界からモノを物質化し、顔と顔を突き合わせてサービスを売る時、そこに働くイマジネーションが地域による差を感じさせず、簡単に共有できるものであったことだ。改めて現代を生きる私たちの多くが完全にPCとネットの中に住んでいることを思い知らされる。

示されたもの―アート/フェスティバルを超えて

と同時に、そのような、「決まり」を持った構造から外れようとする試みが、例えばキーボードとマウスを燃やして暖炉の映像とした《Smart Fireplace》(エキソニモ)やビットコインを記録した媒体を網焼きしたパフォーマンス《Hello Bitcoin》(Geraldine Juarez)(ともにAHD出品作)に見られるように、一種のアナーキズムとも呼べるような様相を呈していたことも記しておきたい。二つの社会体制が生々しくぶつかったベルリンの現代史の真上で、世界中を覆う、(社会体制や国家とは違ったもう一つの)権力構造を問い続ける姿勢を見せた今回のトランスメディアーレは、アート、あるいはフェスティバルといった領域をはるかに超えるスケールと先鋭さで記憶されるだろう。