2009年、加藤久仁生の「つみきのいえ」のアカデミー短編アニメ賞受賞が報じられた時、日本ではそれまで(一般的に)無名だったインディペンデント・アニメーション作家の存在が、初めて広く知られることになったといってもいいかもしれない。しかし商業作品の話題ばかりが日々取り上げられる一方で、加藤のように個人で黙々と作品を作り続けるアニメーション作家もまた、日本のアニメーションの豊かな水脈を作り続けているのだ。

 そのような個人作家の一人として、「グレートラビット」(2012年)でベルリン国際映画祭短編部門銀熊賞を受賞した和田淳(わだ あつし・1980年生まれ)の(公立美術館での)初の個展・「私の沼」が、2月3日から28日まで神奈川県・横浜美術館で開催される(http://yokohama.art.museum/exhibition/index/20170203-482.html)。これは同美術館が、期待の若手作家を紹介する「New Artist Picks (NAP)」シリーズとして続けている企画の一環で、今回は「アートギャラリー1」と「Cafe 小倉山」を会場として(いずれも観覧無料)、5つのプロジェクターを使ったインスタレーション形式で和田の新作が発表されるという。

 大学在学中にふと描き始めた落書きから、”描いたものを動かすこと”の面白さに目覚めたという和田は、「鼻の日」(2005年)でノーウィッチ国際アニメーション映画祭短編部門グランプリに輝いたことを皮切りに、文化庁メディア芸術祭 優秀賞など数々の賞を受賞。オリジナル作品の発表と並行して「私は猫ストーカー」(2009年)ほか、実写映画のアニメーション・パートを担当するなどして活動を続けている。

 CGを使わず、シャープペンシルで作画(近年は液晶タブレットを使用)される作品は最長で10分程度の短編ばかりだが、いずれもプクプク膨れた登場人物や動物が、前後の脈絡のない不可解な行動を繰り広げていく。素朴なタッチのシュールレアリスムとも見えるそれらのイメージは、だがイメージそのものよりも”動き”や”変形”によって表出する人物や動物の質感(肉感というべきか?)が奇妙な感覚を呼び覚まし、和田作品ならではのフェティシズムを醸し出すのである。和田本人によればこのフェティッシュな感覚と、時間の流れを自在に断ち切る独特の”間”こそが彼の表現したいものであり、だとすればそれらの集積こそが、結果として和田の作品を形作っているともいえるだろう。そして観客にとってもそのような感覚や間をひたすら受容し、心地よく感じ取ることが正しい鑑賞法ということになる。

 代表作の「わからないブタ」(2010年)を含めたそれら和田の短編作品は、会期中の2月25日に同館レクチャーホールで行われる上映会「カラダリズム!フィルム!」のAプログラム(PM1〜・無料)で9本が上映されるほか、2月4日には「アートギャラリー2」で和田本人による「アーティストトーク」(PM4:30〜・無料)が、2月5日には同館「市民アトリエ平面室」で、アニメーション作家の山村浩二を講師に迎えてのアニメーション・ワークショップ「カラダのリズム」(受付終了)が開催される。

 公立美術館がこのような形でアニメーション作家にスポットを当てることにより、和田淳や加藤久仁生だけでなく、山村浩二など数多くの才能がきらめく日本のインディペンデント・アニメーションの世界が、より広く人々に知られることを願わずにはいられない。

(霜月たかなか)